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110 結末と新たな依頼

ダンジョン攻略直後からのシーンになります。




 ダンジョンの精霊から【加護(ギフト)】を得るための“攻略”は終わりを告げた。

 ダンジョンボスを倒したことにより出現した出口を通って、婚約者さえ放って先に脱出したカルラ以外全員が、無事生還をすることができた。

 外にカルラの姿はすでになく、その加護の行方は未だ定かではない。

 あの時、精霊は私の他に三人の人間を招いたと言っていた。そのうちの一人はすでに加護を得たカルラだと判明しているが、残り二人が加護を得たのか? そもそもそれが誰かも今は分かってはいない。


「アリアっ、お前、加護を得たのか?」

 ダンジョンから出るとすぐに、フェルドがドカドカとした足取りで、少し怖い顔をして近づいてきた。戦闘中はあえて流していたみたいだが、その表情から察するにフェルドも【加護(ギフト)】の危険性を知っていたのだろう。

「ううん、加護は貰ってないよ」

「本当か…? それじゃあの力はなんだ? ステータスの上限が跳ね上がっていたように見えたが……」

「あれは精霊に名付けてもらった【戦技】だよ」

「戦技…? あれが? 本当に加護じゃないんだな? あれで助かったのは確かだが、それでも身体に負担が掛かるんじゃないのか?」

「時間制限はあるけど……」


 確かに負担はあるけど、ある程度連続で使えば通常の戦技でも同じことだ。

 フェルドは心配性だな。彼の大きな手に肩を掴まれながら、本当にお父さんみたいだな……と口には出さずに思っていると、会話が聞こえたのかミラとヴィーロが私たちの所へ近づいてきた。


「強くなったのなら良いと思うけど……アリアちゃんだって、もう大きいんだから無茶な使い方はしないでしょ?」

「あれって戦技だったのかよ……。俺も加護か聞こうと思ってたんだが、それじゃ俺も使えるのか?」

 ミラは見た目は若いのに、親戚のおばさんみたいなことを言う。疑問が晴れたヴィーロのほうは、もう意識を切り替えて自分の戦力になるか気にしていた。


「お前ら、気になるのは分かるが話は後だ。ここは他の冒険者の目もある。急いで撤収するぞ」

 最後に来たドルトンの言葉に、みんなが周りに気づいて撤収準備を始める。

 どうやらここは、森の中にあるダンジョンの入り口のようだ。日が暮れていることと空気の湿度具合から真夜中だと判断したが、そんな時間でも少数だが冒険者の出入りがあるようだ。


 すでに王太子とクララの撤収は済んでいて、まだ残っていた者たちの中でエレーナの不安そうな瞳と目が合ったが、それを遮るように王弟のアモルが私を睨むと、そのまま彼らは出立した。


「では俺たちも戻るぞ」

 私たち『虹色の剣』もエレーナたちと少し間を置いて、ダンジョン前から移動する。移動といっても元から距離的には大したことはなく、十数分も歩くと最初にダンジョンに入ったフーデール公爵の迎賓館に到着した。

 長いダンジョン攻略で時間の感覚もなくなっていたけど、真夜中に到着した私たちは疲れていたこともあり、割り振られていた離れで泥のように眠ることになった。


 翌朝の昼近く、ハウスメイドの近づく気配で目を覚ました私は、そのメイドからドルトンとヴィーロが朝に呼び出されて、最終の打ち合わせを行なっていることを知る。

 私も呼び出されていたそうだが、私が激しい戦闘をして疲労しているという理由で、ドルトンが断ったらしい。

 たぶん……フェルドみたいに、私が使った【鉄の薔薇】が【加護】だと思われたのだろう。そんな誤解をされて私が無理矢理王家に囲われることを、ドルトンが未然に防いでくれたのだと思う。

 エレーナならある程度は私の意志も尊重してくれるとは思うけど、王弟のアモルや王太子のエルヴァンがどう動くか分からないからだ。


「それで、アリアちゃんは精霊には会ったの? 何の精霊だった?」

 昼食頃にフェルドとミラが起きてくると、やはり精霊使いとしては気になる部分なのか、ミラが食事を摂りながらそんなことを聞いてきた。

「普通の精霊じゃないって本人も言っていた。人間の意識が混ざっているって」

 エルフってこんなに肉ばかり食べるんだっけ……と思いながらそう答えると、ミラは私が知らなかった情報を教えてくれる。

「人の意思ね……。聞いた感じだと、加護を与える選択が王族や上級貴族に偏っていたから不思議に思ってた。アリアちゃんが呼ばれたのも不思議だけど」

「私の場合は“髪色”が気になったみたい」

「……その髪か」

 その横で私たちの話を聞いていたフェルドが、私の灰で隠すことをしなくなった髪を見て、何故か静かにそう呟いていた。


 そうしているうちにドルトンとヴィーロが戻ってきた。それだけでなく侍女服姿に戻ったセラまでも一緒にいて、ドルトンたちと一緒に話し合いの結果を教えてくれる。

 今回の『虹色の剣』への報酬は、大金貨が二百枚。その他にもダンジョンで見つかったアイテム類や素材の一部が渡されるそうだ。

 分配は、二割をパーティーの維持費としてドルトンに渡され、その他は均等に分配される。ただし今回の私は新規なので若干低めになるそうだ。それでも私の取り分は大金貨で二十枚……一人田舎で慎ましく暮らすのなら十年は暮らせる大金だ。

 アイテムと素材は一旦ドルトンの屋敷に収められて、必要に応じて換金や装備の素材にされる。

 だけど今回は、王家から特別褒賞としてさらに素材をくれるそうだ。その話が済むと同時にセラが革の包みを私へ差し出した。


「……私に?」

「そうですよ、アリア。これは竜の牙並に貴重な素材であり、王家の所蔵とされる物でしたが、姫殿下の進言によりこちらが虹色の剣に贈られることになりました。ですが、ドルトン様は、最後に状況を変えることができたのは、あなたの力があったからだと言われたのです」

 革包みを開くとその中には、長さ20センチほどの真っ黒な角が収められていた。これって……

「俺たちがへし折った、ミノタウルス・マーダーの角だ。他の素材はあの“お嬢さん”に燃やされてしまったが、そいつだけは無事だった。俺やフェルドの武器にするには小さいが、ガルバス兄弟ならお前の武器を強化してくれるはずだ」

 ドルトンやヴィーロたちが笑顔で頷いてくれるのを見て、私はその角を両手で強く握りしめた。

「それで、ここからが本題だ」


 私はあの時、あの場から消えて数秒後に戻ってきたらしい。その時同時に姿を消した人物が三人いて、その一人は“加護”を得たカルラだと判明しているが、残りの二人のうち一人はカルラ同様に“加護”を得て、もう一人は“恩恵”だけを貰ったらしい。

 ドルトンがそこまで話すと、続きをセラが話しはじめる。


「アリア、あなたも加護ではなく“恩恵”を得たと、ドルトン様から説明を受けました。その説明をあなたに直接伺いたいのと、『虹色の剣』の一人であるアリア個人に依頼を持って参りました」

「依頼?」

 私がそう呟くとセラが静かに頷く。

「姫殿下からの直接のご依頼となります。内容は本人にお尋ねください」

 そこで一息つくとセラは苦笑するように小さく笑う。

「言葉にされてはおられませんが、姫殿下はあなたのことを心配されておりましたよ」

「…………」


 以前の戦技となる前のあの技なら回復しなければ動けなかったが、今の戦技となった【鉄の薔薇】は、疲労感はあるけど身体で痛めている箇所はない。

 それよりもエレーナからの依頼? いいのだろうかとドルトンに視線を移すと彼は真面目な顔でゆっくりと頷いた。

「個人依頼はよくあることだ。それに、他の王族の横やりは防いだが、王女殿下のことはお前が決めろ」

「王女様のほうが横やりが防げて良いかもしれないぞ」

 続いたヴィーロの軽い口調に、私も静かに頷いた。

 加護ではなく恩恵だとしても、王家としては、精霊に関わった人物を野放しにはしておきたくないのだろう。それなら――

「わかった。話を聞く」


 すぐにセラと二人でエレーナのいる個室へ向かう。

 その途中で会った私を見る者たちの視線は様々だ。近衛騎士や従者たちは好意的な視線と怯えの視線が入り交じり、攻略には参加しなかった公爵家の騎士たちからは、侮るような視線が向けられた。

 10分ほどでエレーナの部屋に着くと、扉を護っていた近衛騎士たちが私を見て直立不動の姿勢になり、セラの口元が笑いを堪えるように微かに引き攣っていた。


「殿下、例の冒険者を連れて参りました」

 セラが扉の前でそう告げると、中から以前見たこともある暗部の侍女が扉を開けて、私を見て小さく微笑んだ。

 部屋の中に通され奥へ進むと、私を見て一瞬ソファーから腰を浮かしかけたエレーナが、それを誤魔化すように深く座り直して優雅な笑みを浮かべる。


「こちらへいらっしゃい、アリア。付け焼き刃の礼儀なんていらないわ。ここに居る者たちは皆、“あなた”を知っているから」

「……了解」


 私は侍女に案内されたエレーナの対面となるソファーに腰を下ろして、彼女の真意を伺うためにジッと彼女を見る。


「加護は?」

「いきなりね。わたくしも久方ぶりのアリアと何を話すか、色々と考えていたのだけれど……そうね。らしくなかったわ」

 セラが煎れてくれた、この地方の茶が甘い香りを漂わせる中、エレーナは一口それを含むとホッと息を吐く。

「私は“断った”わ。たぶん、アリアと一緒。その代わり少しでも健康な身体を願ったのだけど……【火炎(ファイア)(ジヤベリン)】――」

 エレーナが唐突に魔術を使う。でも、魔力は確かに動いているのにその魔術は発動しなかった。エレーナは自分の手を見て自嘲気味に笑う。

「おそらくは、火魔術の【スキル】と【属性】を消されていると思いますわ。精霊は魂の修復と仰られていましたが……。属性が一つ減れば、心臓を圧している魔石も徐々に小さくなっていくでしょう。でも……レベル3まで鍛えた【火魔術】が消えちゃった。その“了承”をしたのはわたくしですが、カルラ様が身体の治癒を願わなかった気持ちも、少しだけ理解できますわ」

「なるほど……」


 魂に刻まれた【スキル】を消すのは、タトゥーを消すのに【治癒(キユア)】を使うのと似た感じなのだろうか。

 そしてエレーナが『了承』と言葉にしたのは、あれほどの存在でも魂に触れるには、何かしらの制約があるのかもしれない。

 属性が一つ減ったことでエレーナは少しだけ力を失った。だが、それと同時に健康な身体を手に入れたことで、彼女を女王と推す声も大きくなるはずだ。

 私にしたい“依頼”とはその関係なのだと、なんとなく察しが付いた。

 私が無言のままジッと彼女を見つめると、エレーナはその意図を察して、彼女らしい不敵な笑みを浮かべる。


「単刀直入に申しますわ。一年後、わたくしは魔術学園に入学します。その三年間、冒険者アリアに、学園内での護衛を依頼します」



エレーナの身体は癒されました。

でも確かに、これだとカルラは欲しがりませんね。


次回、依頼の準備。

次は水曜か木曜の更新予定です。

あらためて、こんな読む人を選んでしまうクセのある小説を、沢山の方に読んでもらえてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
アリアがフェルドにお父さんみを感じて不意に幼い仕草が出たり、本当の初対面についてバラさない理由も逆に子供っぽくて、師匠もそうだけどアリアが多少なりとも年相応に近い姿で居れる相手がいる安心感。あの時フェ…
3年間の拘束は長すぎるなあ
なにぃ!? 素材を焼き尽くしただとぉ!? なんて勿体ない事を! もったいないお化けが出るぞ!
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