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108 第一部最終 炎の中の誓い

第一部のラストになります。

※鉄の薔薇で、試しに読み方を変えていた時間帯がありますが、すでに戻してあります。こちらが正になりますのでご了承ください。

戦闘力の調整をしました。



『グォオオオオオオオオオオオオッ!!!』


 片目を断ち割られた朱牛が苦悶の叫びを上げる。だが、お前にばかり構っている時間はない。


【アリア(アーリシア)】【ランク4】

【魔力値:107/270】【体力値:159/210】

【総合戦闘力:916(特殊身体強化中:1769)】

【戦技:鉄の薔薇(Iron Rose) /Limit 107 Second】


 戦技、【鉄の薔薇(アイアンローズ)】――私が制御できなかった純魔素で強化する技に、精霊が“名”をつけて【戦技】となった。

 そしてその戦技の名は、精霊が認めた私を顕す“銘”でもある。


 まずは蒼牛を一人で引きつけているヴィーロの援護に回る。

 私が駆け出した瞬間に周囲の景色が一瞬で流れていく。良くも悪くも、制御できなかったあの技ほどじゃない。でも、強化のバランスが無茶苦茶だったあの技に比べて、すべてのステータスが上昇して、私でも制御できるようになっていた。


「ヴィーロッ!!」

 良かった、まだ生きている。でも、パワー型の蒼牛を一人で引きつけていた彼はもうボロボロだった。

 さらに速度をあげ、光の残滓を帚星のように引きながら、そのまま飛ぶように蒼牛の頭部に踵の刃で蹴りを放つ。

 ガキィッ! と激しい音が鳴り踵の刃は角で弾かれたが、蒼牛の頭は大きく揺れていた。

『ブモォッ!?』

「アリアッ!?」

「回復しろ、ヴィーロ」

 着地しながら【影収納(ストレージ)】に入れてあった予備のポーションを彼に投げつけ、そのまま飛び出すようにナイフで蒼牛へ斬りつける。

『ブォオオオオオオオオッ!!』

 やはり速度を上げても体重の軽い私ではダメージが低い。即座に私に気づいて振り下ろされる蒼牛の大剣を、私は黒いナイフとダガーを交差させるようにして受け止めながら、力と技量で受け流した。

 筋力や耐久力も倍くらいまで強化されている。ステータス的には蒼牛に近い値にまで上昇しても、体格的に骨が軋みをあげていた。だけど、私も蒼牛と力で対抗するつもりはない。


『ブォッ!?』

 一瞬で蒼牛の目の前から消えた私が瞬時にその背後に回り、その首に両手でダガーを突き立てる。

『ブモォオオオオオオオオオオオオッ!!』

 どれだけ肉が厚いんだ……、激痛に暴れる蒼牛の背から飛び降りた私は、光の残滓を撒き散らすように飛び出し、隙を見せた蒼牛の手の甲を斬り裂いて、その手から大剣を弾き飛ばした。


 元々一般人程度の筋力しかない私でも、強化すれば蒼牛の大剣を受け流すことができた。ならば最初から蒼牛と同程度だった敏捷度を倍にできれば、ランク5の蒼牛や朱牛でさえ翻弄する。


 すぐに飛び出した私が落とした大剣を蹴り飛ばすと、興奮状態に陥っていた蒼牛は四つ足になるように身を低くして、二本の角で体当たりを仕掛けてきた。

 私もそれに応えるように前に出る。【影収納(ストレージ)】から出した二本の暗器を構えて、光の残滓を飛び散らしながら、最大速度で真正面から突っ込んだ。

 数メートルの距離が一瞬で縮まり、ぶつかり合う寸前二つの暗器を蒼牛の両目に突き立て、その歪な角が私を貫く寸前、蒼牛の巨体を飛び越える。


『ブモォオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 転けるように石床を転がりながら蒼牛が激痛に吠える。


「冒険者を援護しろっ!!」

 その時、まだ動ける騎士たちが追いついてきた。

「ここは任せた」

 私はすぐに彼らとヴィーロに蒼牛の相手を任せると、すぐにドルトンたちの援護をするためにその場を離れる。


【アリア(アーリシア)】【ランク4】

【魔力値:82/270】【体力値:159/210】

【総合戦闘力:916(特殊身体強化中:1769)】

【戦技:鉄の薔薇(Iron Rose) /Limit 82 Second】


 魔力値がかなり減っている。本来の身体強化は100秒で魔力を1消費するが、この技では百倍の魔力を消費していた。

 完全な状態なら270秒間【鉄の薔薇】を使えるが、魔法や戦技のことを考えると使用できるのはこの数字よりかなり短いと思ったほうがいい。

 それ以前に、私の成長しきっていない身体では、数十秒間使っただけで全身の骨や筋肉が軋み始めている。


「それでも、ここで止まる理由はない」


 さらに速度を上げて駆け出し、ドルトンたちと戦っている黒牛の背後に迫りながら黒いダガーを両手に構えて、そのまま黒牛の膝の裏を皿まで貫通した。


『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!?』


 突然の激痛にさすがの黒牛も叫びを上げる。

 ギロリと睨んで黒牛は、その巨大な拳を私へ振り下ろす。ダガーから手を離して地を蹴るようにして離れた私は、飛び散る光の残滓を翼のように広げながら宙に飛び出し、膝を貫かれて体勢を崩した黒牛の顔面を蹴りつけた。

 だが、黒牛もすかさず巨大な角を使って私を薙ぎ払おうと試みる。でも、その角の片方は、すでにドルトンたちによって折られていた。


『ブモォオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 踵の刃が黒牛の眉間に突き刺さる。だが、即座に繰り出される黒牛の戦斧が唸りを立てて私へ襲いかかってきた。

「――【闇の霧(ダークミスト)】――」

 とっさに放った闇の霧が黒牛の顔面に纏わり付き、わずかに狙いが逸れた戦斧を蹴って黒牛から離れた私は、着地した瞬間に思わず膝をつく。


【アリア(アーリシア)】【ランク4】

【魔力値:43/270】【体力値:159/210】

【総合戦闘力:916(特殊身体強化中:1769)】

【戦技:鉄の薔薇(Iron Rose) /Limit 43 Second】


 魔力がかなり減っていた。【闇の霧(ダークミスト)】を使ったけど、ここまで消費の大きな魔法じゃない。もしかしたら【鉄の薔薇(Iron Rose)】を使っている間は、魔法の消費が大きいのか……。


「よくやった、アリアッ!!」

 その隙を逃すことなく飛び込んできたドルトンが戦鎚を振り下ろし、黒牛の右腕を叩き潰すようにして巨大な戦斧を弾き飛ばした。

「後は任せろッ!!」

 飛び込んできたフェルドが、とっさに首を庇おうとした黒牛の左腕を大剣で斬り飛ばし、ミラの放った矢が黒牛の顔面に突き刺さる。

『ブォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』


 それでもまだ黒牛は生きていたが、それを見て私も限界を感じた“鉄の薔薇”状態を解除する。私の髪が鉄色から普段の桃色に戻り、急に重く感じた身体に思わず膝をつく。

 でも、まだ戦いは終わっていない。


『ガァアアアアアアア……』


 片目を潰された朱牛が残った左目で私を睨みながら、ハルバードを引きずるようにして近づいてくるのが見えた。

 その深く斬り裂かれた右目からは血が止まることなく零れ、全身を斬り裂かれて血を失った朱牛に以前の精彩はない。

 だが、その闘志は未だ消えることなく、憎悪を漲らせたその瞳にはもう“私”しか映っていなかった。


「…………」

『……ガァ』


 私も軋む身体に力を込めて立ち上がり、黒いナイフを両手で構えて手負いの朱牛と正面から対峙する。

 集中力が周りの雑音や余計な景色を消していく。互いに両手で武器を構え、私の頬を伝う汗と朱牛の滴る血が石床で跳ねた瞬間、私たちは同時に飛び出した。

 ダンッ!!!

 ぶつかり合うようにハルバードの刃をいなして、飛び越えるように放った私の刃を朱牛は角を使って弾く。

 身体に無理をしている私と今の朱牛の速度は同程度。それでも瞬発力でまだ勝る私が朱牛の手首を斬り裂き、瞬時に武器を諦めた朱牛は角を使って私の心臓を狙ってきた。

 ガキンッ!!

 恐れることなく、その鋭い角の一撃を避けずに黒いナイフの尖端を合わせるように受け止めると、自分の奥底で何かが嵌まるような感覚がした。

 そのまま反動で大きく宙に飛ばされた私は、何もない宙を蹴り上げる反動で体勢を変えて、逆さまのまま大きくナイフを後方に振りかぶる。


「――【神撃(クリティカルエツジ)】――ッ!」


 ほぼ無意識に放ったその一撃が、無防備な朱牛の首を半ばまで斬り裂いた。

『ブモォ……ッ!』

 首と口から大量の血を吐き出して、その巨体がぐらりと揺れたその時、離れた場所から聞き覚えのある“声”が聞こえた。



「――【魂の茨(ソウルソーン)】――」



「カルラ……?」


 魔術師のローブを脱ぎ捨て、簡素で飾り気のない真っ白なドレスを纏った彼女の白い腕や首筋に、纏わり付くように蠢く“黒い茨”の模様が浮かび、そこから膨大な魔力が溢れ出した。


『――ッ!!』

 カルラの放った火魔術が、闘技場の床を舐めるように駈けながら、大量の炎が死に掛けた朱牛を包み込み、瞬く間に燃やし尽くす。


「そぉれっ」


 愉しげな掛け声と共にカルラの周囲に、一抱えもありそうな巨大な火の玉が十数個も浮かびあがる。

 あれは【火球(ファイアボウル)】っ!? ヴィーロが使った魔道具に込められていたのと同じレベル5の火魔術だが、込められた魔力が尋常でないと気づいて、私はカルラの視線の先にいる彼らに叫ぶ。

「フェルド、ヴィーロ、避けろっ!!!」


 異常を察した仲間たちと騎士たちが逃げるように離脱した瞬間、カルラから放たれた大量の【火球】が降りそそぎ、まだかろうじて生き残っていた黒牛と蒼牛を炎で包み、周辺を炎の海原に変えた。

 さらにカルラから魔力の高まりを感じた私は、彼女に向けて駆け出した。


「――【鉄の薔薇(アイアンローズ)】――」


 私の桃色の髪が再び灼けた灰のような灰鉄色に変わり、その髪から飛び散る光の残滓を帚星のように引きながら矢のように駆け抜けた私は、再び魔法を放とうしているカルラにそのまま飛びかかるように踵の蹴りを放つ。

「カルラッ!!」

 その瞬間、カルラに巻き付く“黒の茨”から大量の魔力が迸ると、魔力で強引に身体を操ったカルラが私の蹴りを避ける。

 その手から放たれた【氷の槍】を高速移動で回避しながら、私はカルラの首にナイフを振るい、それを飛ぶように避けたカルラを追って飛び出した私の蹴りと、魔力で身体を操ったカルラの蹴りが空中で交差する。


 バシンッ!!

 肉を打つ音が響き、空中で体勢を変えて瓦礫の上に降り立った私と、炎の中に降り立ったカルラが炎の中で向かい合う。

 足の痛みに少しだけ顔を顰めていたカルラは私を見ると、ニコリと笑みを見せた。


「あら、アリア。その髪色も素敵よ」

「それがお前の【加護】か……。身体は癒さなかったのか」


 やはりカルラもあの精霊に招かれていた。加護の代わりに延命を願えば、エレーナくらいには生きられるようになるだろう。

 だけど、カルラはおそらく“延命”ではなく更なる“力”を願った。

 【魂の茨】……聞こえたあの言葉が加護の発動ワードだろう。溢れかえるような膨大な魔力と引き替えに、カルラの“生命”は秒単位で失われている。

 その身に絡みつく“黒い茨”から散る黒い花びらが、消えていくカルラの命そのものに、私には見えた。


「必要ないわ……ただの人生なんて私には不要なものよ」

 膨大な魔力で炎の中に立ちながら、カルラはなんでもなさそうに黒い髪を指で弄る。

「身体を癒すには心臓の魔石をどうにかしないといけない……そうなれば、これまで血を吐きながら鍛えた、私の人生に何の意味があるの?」

「カルラ……」

「私は命尽きるまで前に進む。私を狂わせたこの国を炎で包むまで、誰にも邪魔はさせない。たとえ、あなたでもね……アリア」


 カルラの瞳に狂気の色が浮かび、凄惨で晴れやかな笑顔を浮かべた。

 その時、奥にあった精霊の祭壇が沈むように消えると、その後に現れた扉が静かに開いてわずかな光を漏らした。


「あの精霊も意外と親切なのね……最後の敵を倒すと帰り道が開くようよ。それでは、ご機嫌よう、アリア。私たちの決着は、私たちに相応しい“舞台”を待ちましょう。その時が楽しみだわ」


 炎の中を焼かれもせず、出口へと辿り着いたカルラは、婚約者のエルヴァンを振り返りもせず、そのまま一人で出口の中に消えていった。

 この国を焼く……それでも彼女の性格なら私との決着を優先すると思う。


「そうか……」

 炎の中に一人立つ私は、カルラが消えた出口をジッと見つめる。

 いいよ……カルラ。私がカルラの“望み”を叶えてあげる。



「カルラ……お前は、私の手で必ず殺してあげる」



ようやく第一部が終わりました。かなり長くなりましたね……

それでも続けてこられたのは、応援してくださる皆さまのおかげです。

微妙な部分で終わりましたが、次へ続く“引き”を重視してこのような結末にしました。

アリアとカルラの決着はどうなるか。エレーナとは再び関わることになるのか。クララや攻略対象はどうなるのか? カルラの他の加護の行方は?

第二部「学園編」をお楽しみに。

子兎の中に紛れた野生の虎状態をお楽しみください。

第一部を放浪編【殺戮の灰かぶり姫】

第二部は学園編【鉄の薔薇姫】となります。


それと私の説明不足ですが、加護の寿命対価は能力を使用した分だけです。意志の弱い人間ほど寿命が減っていきます。責任感の強すぎる人間も危険です。

精霊は人族の人生が百年と考え、半分程度に減るような比喩でしてたが、分かりにくくて申し訳ありません。


それでは第二部でお会いしましょう。

第二部は、少し間を置いて、19日の土曜日から開始予定です。

沢山の感想や応援ありがとうございます。ご感想やブックマーク等をいただけたら、モチベーションとなり励みとなり、作者は凄く喜びます。

それでは、第二部もよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
肉を打つ音が響き、空中で体勢を変えて瓦礫の上に降り立った私と、炎の中に降り立ったカルラが炎の中で向かい合う。 瓦礫の上にまで炎が燃え伸びる程二人は見つめ合ったのだ・・・
カルラ……お前は、私の手で必ず殺してあげる >貴人殺害予告で逮捕とか言わないよね? 言われても逃げるだろうけど。
[気になる点] 説明不足といって補足した部分が意味不明です。 >それと私の説明不足ですが、加護の寿命対価は使った分だけです。意志の弱い人間ほど寿命が減っていきます。責任感の強すぎる人間も危険です。 何…
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