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乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ&アニメ化企画進行中】  作者: 春の日びより
第一部放浪編【殺戮の灰かぶり姫】第四章・灰かぶり姫

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104 ダンジョン攻略 ③



「――【二段突き(ダブルエッジ)】――」


『グォオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 放った戦技がオーガの両目を潰し、思わず武器を落として顔を押さえたオーガの背後に飛び込んだ私は、黒いダガーを耳から脳に突き刺してトドメを刺す。

 オーガの皮膚は上級の革鎧にも使われるほど硬く、私の投擲やナイフで傷つけることは難しいが、一対一なら倒せない相手じゃない。


 私が予想以上に戦えると判断したリーダーのドルトンは、斥候だけに私を使うのではなく、ある程度なら魔物の処理を任せるようになった。

 それだけでなく、私があまりにも常軌を逸した戦い方をしたせいで、私が後方にいるとその後についてくる騎士たちの動きが鈍くなったという理由もある。騎士たちはドルトンやフェルドのような“戦士”の強さは素直に認めるが、私のような存在は異質に見えるらしい。

 私も最初はオークやホブゴブリンなどを倒していたが、数日が経つと次第にオーガのようなランク4に近い敵を任され始めた。

 それというのも、ここにきて攻略する速度を上げなくてはいけなくなったからだ。


「こっちは終わったぞ」

「了解」

「さぁて、もう一仕事するか」


 二体のトロールを倒して戻ってきたフェルドやドルトンと入れ替わるように、私とヴィーロが前に出る。

 トロールは通常種でランク4の魔物だが、鑑定による戦闘力では現れない“再生能力”があるために、冒険者ギルドの討伐難易度ではランク5の下位に相当した。

 そういう敵に私やヴィーロが使うような小さな武器では、通常手段で倒しきれないので、前衛二人のような大きな武器に頼ることになる。


 ここまで魔物の素材は回収せず、オーガクラス以上の魔物からだけ魔石を取っていたが、今ではトロールの死体さえも放置するようになっていた。

 当然、私が倒したオーガも捨て置くことになり、ヴィーロも自分が倒したオーガを横目に見ながら私にだけ聞こえるような声で小さくぼやく。

「あ~あ、勿体ねぇなぁ」

「その分の報酬は上乗せして貰えることになったでしょ?」


 ランク4の素材を放置してでも進行速度を上げた理由は、私たちの後ろにいる護衛対象である彼らにあった。


「今日はここまでにしようっ!!」

 しばらく進んで、安全そうな場所でドルトンが声を掛けると後方から安堵の溜息が聞こえてくる。

 私たちは気休めでも低位の魔物避けの香を配置していたが、それだけでは気が休まらないのか、野営の準備をする騎士や護衛たちの顔に隠しきれない疲労の色が見えた。


 七十階層から始まったダンジョンの攻略は、一週間が経過して八十階層にまで達していた。ミラから聞いた話によれば、ダンジョンの深層部の探索なら一階層の攻略に二日以上を掛けるのもざらにあるので、この攻略速度は驚異的とも言える。

 だけどそれも、代々の王族が残した古い資料を使って、一切の寄り道をせず真っ直ぐに進んできた結果だ。

 太陽を何日も見ることができず、達成感も充実感もない彼らは、閉鎖的な環境で時間の感覚もなく同じことを繰り返し、常に危険に曝され続けることで精神的に弱り始めていたのだ。


 戦場に出ることもある騎士でさえそれなのだ。王宮で暮らしてきた王族などいつ限界が来てもおかしくない。

「「…………」」

 私たちも野営の用意をするべくその場を横切ると、わずかに疲れた顔のエレーナと目が合い、彼女は少しだけ苦笑するように微笑んだ。

 エレーナの精神は強い。自分を国のための犠牲にすることを覚悟している彼女なら、この状況でも乗り越えることができると思う。だけど、その近くで腰を下ろして、暗い瞳で従者から渡された水を啜るアモルは、王族の中で一番危うい状態にあった。


 自分で無理に参加したので弱音を吐くわけにもいかず、参加したその理由も、彼の態度から判断すると、若い王族を護るためなのか、加護を得て自分の状況を変えたいのか彼自身が分からなくなっているのだろう。

 私の戦いを見た後から口を出すこともなくなったが、私を見ると目を逸らして何かブツブツと呟くようになっていた。

 彼に比べたら他の王族関係者はまだマシだ。それでも何か心境の変化があったのか、ダンドールの令嬢クララは、ずっと王太子の側で彼に身を寄せ、今まで私を見ると怯えていたその瞳に敵意を見せるようになった。そんなクララに困惑しつつも世話を焼くことで王太子は逆に精神を保てている。


 その中で何度も一人でダンジョンに潜っていたカルラは、何も変わっていない。相変わらず“酷い”ままだ。この一行の中で一番体力値が低いのに、何故か一番愉しそうにしていた。

 慣れているという意味では、私たちも同じだ。百年も冒険者をしているドルトンやミラは普段と全然変わらないし、ヴィーロは酒がないと愚痴を漏らす余裕がある。

 フェルドは身体が大きいので狭い環境は辛いというより面倒な感じで、私はダンジョン経験こそ少ないけど、今更環境で苦痛を覚える生活はしていない。


 話を戻せば、ダンジョンの環境に馴染めない彼らのために、ドルトンはエレーナやセラと協議して、進行速度を上げることにしたのだ。


「……フェルド」

「また来たか」

 近くにいたフェルドの名を呼ぶと、それだけで察してくれたフェルドが大剣を抱えて立ち上がる。

 ヴィーロはすでに動き出していて、それを見たドルトンとミラも床に下ろしていた腰を上げて、戦鎚を構えたドルトンが口の端をわずかに上げた。

「今夜は“肉”か?」

 私たちが動き出したことで、気を抜いていた騎士たちから悲鳴のような響めきが漏れると、その瞬間、それをかき消すように進行方向の通路から駈けてくる“蹄”の音が聞こえてきた。

「ミノタウルスだっ!!」


 騎士の誰かが叫ぶと同時に、通路から四体のミノタウルスが飛び出した。

 ミノタウルスとは巨大な人の身体に牛の頭部と蹄を持つ魔物で、ランクはオーガと同じランク3の上位に位置するが、興奮状態の突進力は同ランクのオーガさえ一撃で屠ると言われ、難易度ランクは4にもなる強敵だ。


「一撃で仕留めろっ!!」

 まだ戦闘態勢も取れていない騎士たちを見てドルトンが私たちを鼓舞する。

 すでにミノタウルスは危険な興奮状態にある。真っ黒な角を突き出すように馬のような速度で突っ込んでくるミノタウルスを前に、ドルトンとフェルドが武器を持って飛び出し、ミラが精霊魔法を唱え始めた。

「左端だ、アリアっ!」

「了解」

 一撃の威力が低い私とヴィーロが同じ敵を狙う。


「大地の精霊よっ! 滅びぬ力にて敵を縫い止めよっ!!」

 ミラの精霊魔法が発動して、ダンジョン内の石床が粘土のように盛り上がり、巨大な杭となって真正面から突っ込んできた一体のミノタウルスを串刺しにする。

 それと同時に飛び込んだドルトンの戦鎚が、ミノタウルスの頭部をチーズのように打ち砕いて轟音を響かせ、フェルドが大剣を真横に振るってミノタウルスの頭部を上下真っ二つに斬り裂いた。

 真っ直ぐに正面から突っ込んでいった私は、突進してくるミノタウルスの顔面を蹴るようにその真上を飛び越え、角に巻き付けた糸を全体重と勢いで引いて顎を上げさせると、そこにヴィーロが戦技を放つ。


「――【神撃(クリティカルエッジ)】――」

 急所を狙い一撃の威力を数倍に高めるレベル4の【戦技】が、ミノタウルスの顎下から脳まで貫いた。

 これは急所から逸れてしまうとただの一撃になってしまう技だが、確実に狙えるのなら数倍の威力を放つことができる必殺の戦技となる。


『ブモォオオオオオオオオオオオオッ!!!』


 その時、雄叫びが轟き、遅れてもう一体のミノタウルスが飛び出してきた。

 騎士たちはまだ立ち上がったばかりで、すぐに戦える者は少なく、私たちも各自でミノタウルスを倒したが、それ故にまだ対応できる体勢でない。

 蹄を鳴らすように真っ直ぐに駈けていくミノタウルスの先には、エレーナたち王族がいる。セラがそれに気づいて庇うように前に出る。彼女の実力があれば一対一でなら倒せるはずだが、私やヴィーロと同じで、一撃で倒せないセラは自分の身を犠牲にして止めようとするだろう。


「アリアッ! 本気(・・)で行けっ!!」

 フェルドが私に声を張り上げる。一瞬だけ目が合った彼は私に向けて頷いた。仲間たちは私の“技”を知っている。ならば本気で行けとはそういうこと(・・・・・・)か。

 一瞬の迷いもなく黒いナイフを口に咥えた私は、地面に爪を立てるようにして前のめりになりながら、身体強化に使っている魔素から不純物を捨てていく。

 魔素の純度が高まると同時に高速で流動する魔素が全身を駆け巡り、身体強化の精度を一瞬で最大以上に引き上げた。


「ハッ!!」

 ダンッ!! と、爪先で石床を抉るように飛び出した私は、視界に映る景色さえ置き去りにして先を駈けるミノタウルスを追い、王族たちに襲いかかる一瞬手前で、真後ろからその頭部を斬り飛ばした。


 首を失ったミノタウルスの胴体が地面に転がり、飛んでいった生首がクララの前に落ちて彼女が悲鳴をあげた。

 ほとんどの魔力と体力を一瞬で消費した私も力尽きて躓くように床を転がり、先に転がっていたミノタウルスの胴の上に倒れ込む。

 オークジェネラルを倒した時の技を使い、動けなくなった身体でぼんやりと、ドルトンはコレを食べるつもりなのかと、くだらないことを考えた。


「アリアッ!!」

 近くにいたエレーナが悲鳴のような声をあげて駆け寄ってくる。

「アリア、また無茶をして…、動けますか?」

 同時に駆け寄ってきたセラがそう言って、私が「大丈夫……」と答えた時、倒れていた私を大きな手が子供のように脇を抱えて抱え上げた。

「よくやった、アリアっ」

「フェルド……」

 追いかけてきたのか……。私は心配するエレーナに問題ないと軽く微笑み、ようやく息を吐いて見える景色に目を細めた。

 フェルドが見ている景色って、こんなに広かったんだ……。


   *


「ミノタウルスが現れたことで、我々が最深部であるエリアに到着したと確信できた。残りは五階層だっ、全力を尽くせっ!!」


 通路の安全を確認してきたドルトンが全員を前にしてそう言った。

 八十一階層からはミノタウルスのエリアになる。敵は強くなるが、ようやく先が見えてきたことで、ドルトンの口調は乱暴だが、そんなことなど気にすらならないように騎士たちが気勢を上げた。


 半日ほど身体を休め、私も自分で治療をしながらセラにも回復してもらい、以前より遙かに早い丸一日ほどで戦線に復帰する。

 そこから一日に一階層を抜けて先に進み、最深奥である最後の八十五階層に到着すると、そこには部屋を間仕切るような壁はなく、幅3メートル高さ5メートルもあるような、精緻なレリーフが施された巨大な鉄扉だけが存在した。

 いかに死んだ人間の思念を読み取っていると言われるダンジョンでも、ここまでの扉を作るのは、何かしらの“意思”の存在を感じる。

 それがダンジョンの精霊であるか分からないが、深く潜るにつれて私は“視線”のようなものを感じるようになっていた。


「では行くぞっ!!」


 ヴィーロと私が念入りに罠を確認して、ドルトンが全員に声を掛けるようにして扉を押すと、重い鉄扉がゆっくりと開き始め、扉が開ききったその先に私たちを待ち構えるように三体の巨大な“人型”が立っていた。


 左右に控える蒼と朱の二体は、ミノタウルスの上位種だろう。そして、その中央に立つ一際巨大な3メートルもある黒いミノタウルスは――


「気をつけろ……、ランク6のミノタウルス・マーダーだ」



黒牛(くろうし)】【ミノタウルス・マーダー】【魔物種ランク6】

【魔力値:250/250】【体力値:800/800】

【総合戦闘力:3240(身体強化中:3960)】



『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』


辿り着いた最奥部に現れた、ランク6のミノタウルスに彼らはどう戦うか。


次は水曜更新予定です。

第一部終了まで後数話です。


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― 新着の感想 ―
逆にこんな攻略で王族にだけ加護を与える精霊、裏がありそうというか悪意とか皮肉でやってそう。
連れてかれるだけで何もせず……そりゃあ達成感も何もないやろなぁ。 王族ってのはそういう「実務による達成感」が無いことには慣れてないといかんのだろうけど。
で、食べたの? オーク(安い豚さん肉)は食べずにミノ(高級牛さん肉)は食べるなんて贅沢なヤツ。
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