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第二十九話 棗君メイクアップ

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 ……―――― Side 葵



「――ふむ、棗君、もう一度言ってもらって良いかね?」


「だから、僕に! ……お化粧の仕方教えて下さい」


 どうやら聞き違いではなかったらしい。今まで頑なに男の子であろうとしてた棗きゅんにどんな心境の変化があったのか。とりあえず顔を赤らめて上目遣いにお願いされては、私の理性が決壊してしまっても仕方がないと言える。ここで棗君の花を散らせてしまったとしてもそれは自然の成り行き、むしろ当然の帰結と言えるのではなかろうか?


 ――いや、まて武原葵。ひょっとして、その思考は少し過激過ぎなのでは無いだろうか? 今この流れで手を出してしまっては、流石に暫く口をきいて貰えなくなってしまうのでは? それだけの事を犯した場合、事の重大さを考えれば、それが二、三日は続いてしまう可能性も考えられる。


 うむ、冷静に考えてみると、やはり怒られてしまう気がするぞ。ここは心を落ち着けて真剣に棗きゅんの相談に乗っ……


「……だめですか?」


 ふぉぉぉぉおおぉぉ!! 無理でしたぁ!! 何この可愛い生き物! 私は即座に棗君を抱きしめると、勇者の身体能力をフルに活用し、その可愛らしい体を抱き寄せ、撫で回し、眼球に指を突き立てられ、杖で殴打された。


「んげぎょっ!目がぁっ!?」


 うん、最近反撃に容赦が無くなったよね。回復魔法あるから良いけど目玉はダメだよ! 目玉はダメだよ棗きゅん!! お姉ちゃんちょっと女の子が出しちゃダメなタイプの声出しちゃったよ?


「もういいです! お願いする相手を間違えました!」


「あぁ~待ってくれたまえよ、悪ふざけが過ぎたね。ちゃんと教えてあげるから許しておくれよ棗きゅぅん!」


 危ない危ない。危うく棗君を怒らせて、せっかくの女の子チャレンジを邪魔してしまうところだった。一度怒らせてしまったから、敢えてお化粧する気になった理由は聞くまい。


 まあ理由なんて一つしか思いつかないけどね。恐らくは昨日のあの手紙が原因だろう。(もちろん盗み見ていた)


 メイド服対抗事件と言い、今回の事と言い。秀彦は罪づくりだねぇ。ま、その御蔭でお姉ちゃんこんな美味しいイベントをゲットしてしまった訳なんだけども。よしよし、秀彦が見ただけで鼻血吹き出して、ゴリラ体型からチンパンジー位まで萎むほどの棗君を作ってあげるからね~。


「それじゃあ棗君、こっちに来たまえ。私がメイクをして、棗くんをお姫様にしてあげよう」


「ぅう、はい、お願いしましゅ……」


 少し照れながらも、いそいそと鏡の前の椅子に座る棗きゅん。デュフフ、男の子の頃も可愛かったけど、女の子になってからのこの娘は本当に可愛らしいね。正直、元の性別は神様がうっかり間違えていたとしか思えない位に完璧に女の子なのだよねこの娘。まあ、男の()の頃からその悪魔的な可愛らしさで失恋記録をどしどし更新していたのだけどね。


 しかし、その都度告白していた私には何故か靡いてくれなかったのは誠に遺憾としか言いようがない。これでも私は、学園一の美女とか、平成最後の大和撫子とか、色々言われていたのだけどね。


 私は化粧道具一式を持って、棗くんの後ろに立つ。意外な事だったのだけど、この世界の化粧品は、現代日本の物と比べても遜色がない。やはりこの世界は”魔法文明”という日本とは違う進化を遂げているだけで、文明レベルとしてはさほどの差がないのだろう。強いて言えば、乗り物などは少し前時代的と言えるかな? しかし、乗り物は動物が牽引するものが多いが、この世界の人間は単身で空を飛んだりするからどちらが凄いのかと言うと難しい所だ。


 ――おっと思考がそれてしまった。とりあえず棗君のお願いを叶えてあげるとしよう。


「さて、早速始めようか。棗君は地が良いからナチュラルなメイクにしたほうが良いんだけど……」


 ん、~ん? んん?? なんだろうね。このすべすべもちもちで真っ白なお肌は。これはベースメイクすら必要なのか疑ってしまうレベルだね。えぇ、なんだろうねこれ? 君……お肌きめ細やか過ぎやしないかね? 流石のお姉ちゃんも、ちょっと嫉妬しちゃいそうになったよ?


 し、しかし、お姉ちゃんは全力を尽くしますとも。最高級素材を活かしてこその先輩女子であるからね。君はメイクしないほうが綺麗だよ。なんて男子高校生みたいな言葉を吐く訳にはいかないのだよ。


 暫く私はマッサージする様に棗くんのお顔の感触を堪能する。

 うーむ、このお肌……なんというか、いつまでも触っていたくなってしまうね。手触りが気持ちよすぎる。


 ……さわさわ


 頬から撫で、徐々に下がって唇……首筋……鎖骨を伝ってその控えめな主張をしている2つの膨らみに「目がッッッ!?」ぬふっ! な、棗きゅん、Hな事したお姉ちゃんも悪かったけど、躊躇いなく親指を目に突き刺すのは女の子として駄目だと思うの……あ、はい、そんなに睨まないで下さい。ちゃんとやります。


「次は鼓膜も破りますよ?」


「え、怖い!?」


 私の目を回復魔法で癒やしつつ恐ろしいことをつぶやく棗君。棗くんのちっぱいをモミモミする代償に眼球や鼓膜を破られるなんて……うまい具合に悩ましい条件をつけてくるなと感心する。代償としては等価と言えるだろうね。


 とりあえず眼球の痛みで目が覚めたので棗君のメイクを続行する。呆れた表情で見つめてくる棗くんが可愛らしい、そんな表情で睨むなんて……お姉ちゃんもう辛抱がたまら……


「耳がぁぇあっ!?」


「一分も我慢できないんですか貴方は!!」


 何を言ってるか聞こえないよ棗君!! 何を言ってるのか想像はつくけど、まさか掌底で挟んで鼓膜を破るなんて、こんな技持ってるのお姉ちゃん初めて知ったよ!?


 ――…… キーン


 ふう、再び棗くんの法術で治癒されていく私の耳。この法術便利すぎるから、最近お姉ちゃん生傷が絶えないなあ。でも棗くんの柔らかくて可愛らしいちっぱいも悪いのだよ? 私を絶えず誘惑して……わかっているとも、ごめんなさい、真面目にやりますとも。だからその物騒な杖をしまっておくれ。


 あまりやりすぎては嫌われてしまうからね。お姉ちゃんは棗君に嫌われないラインをちゃんと弁えているんだよ。


「言っておきますけど、次変な事したら。先輩の斧全部、刃を抜いて捨てますからね?」


「あんまりだよ! 何でそんな酷いことを!?」


 どうやらライン分かってませんでした。反省します! 思っていた以上に棗君を怒らせてしまっていたらしい。あの優しい棗君がこんな残酷なことを言い出すなんて。うぅ、想像しただけで涙が……


「なんで斧だとそこまで効果あるんですかね? 目潰しとかの方がよっぽどだと思うんですけどね!?」


「うぅ、斧だけは、斧だけは許しておくれ。真面目にやりますから」


 およよよよ……ここまでの怒りを買ってしまっては流石のお姉ちゃんも猛省です。真面目にやります。え、さっきまで巫山戯ていたのかって? いやいや、真面目にやってはいるんだよ。だけど、棗君がこんな近くにいると、こう、ね? フェロモンが、棗君フェロモンがね、クンクン……なんでこんなミルクみたいな甘い香りを……棗君フェロモン……なつエモン、クンカクンカ……スーハー……はぅあっ!? 棗くんの目つきが!?


「危ないところでしたね? あと一秒でしたよ?」


「だ、大丈夫、お姉ちゃんは正気にもどった」


「直ぐに正気失いそうなセリフだね!」


 今度こそまじめにメイクメイク、目元をちょいちょいとね。


「ふぁ……」


「ふふ、アイメイクをすると一気に印象が変わるだろう?棗くんはすっぴんだと可愛らしさが表に出るからね、折角メイクするなら、少し大人っぽさも出るようにしてみたよ」


 鏡を見ながら驚く棗君、愛い奴め……デュフ。


 ……はぁう!? いや、まだ大丈夫、まだ私は正気だ。幸い棗君は鏡に気を取られていて、お尻に伸びた私の手には気がついていない。寸止めセーフ。私の鉄の理性を褒めてほしい。


 仕上げに薄っすらチークを入れてナチュラルな色合いのリップをぬって。


「はい、完成だ!どうだい、軽いメイクでも印象が大分変わるものだろう?」


 みたかね、これが女の子マジックだよ、棗君!

 暫く惚けるように鏡を見た棗くんは、満面の笑みを浮かべて振り向いた。あまりの可憐さに胸が高鳴ってしまう。


「……凄い、ありがとう、葵お姉ちゃん(・・・・・・)!!」


「ブッフォッ!!」


「ぎゃああああっ!?」


 興奮した棗君がついつい昔の呼び方で私を呼んでくれた、余程嬉しかったのだろう。しかし、その無防備な笑顔と呼び方は、今の私には刺激が強すぎる。興奮した私は、ついつい鼻血を吹き出してしまった。


 折角のメイクが大惨事になっていく。だって仕方がないだろう、あんなに自然にお姉ちゃんと呼んでもらってしまったら、世界中のお姉ちゃんが鼻血を吹き出すとも。吹き出さないやつはお姉ちゃんではない。


「ご、ごめんよ棗君、悪気は無かったんだ……」


「うぅ、状況は酷いけど、これは仕方がないね。わざとじゃないだろうし。葵先輩、治癒するから鼻見せて?」


「……あい」


 うーむ、せっかくメイクしたのに台無しにしてしまった。申し訳がない。


「仕方ないからお風呂入って綺麗にしたら今度は自分でやってみるよ。その時はまた教えてね? 葵先輩」


「うんうん、もちろんだとも。それじゃあ軽く血を拭ったら一緒にお風呂に行こう」


「はーい」


 よし、グッジョブ私。自然な流れで一緒にお風呂タイムをゲットした。ボディタッチは激しい反撃を受けるけど、最近棗君はお風呂は一緒に入ってくれるのだよね。まだ女の子歴が浅い棗君は、私の性的な視線というものに鈍感なのだろう。


「あと、メイク教えてくれてありがとうね、凄く嬉しかった!」


「ブッフぉ!!」


「ギャァァァァッ!?」


 いやいや、態とじゃないんだよ? でも、そんな無防備な笑顔でお礼を言われちゃったらお姉ちゃん理性が……いや、本当に申し訳ない……




 ――――……




 次の日王都にて、可愛らしく変わり果てた親友からのお悩み相談レターを受けとったゴリラが盛大に茶を吹き出したとか……

 

お化粧の知識などありませんので、なんか変でもゆるしてにゃん!!


今回は変態視点で書いたんですが変態すぎて書いててドン引きでした!

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