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第二十八話 憤怒

先週はすいませんでした~

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 ――僕の目の前には今、般若の如く顔を歪ませた怒っていないリーデル騎士団長様がおられる。正直直視するのが恐ろしいほど怒りの目を向けられている気がするけど、本人は怒っていないとおっしゃられているのできっとそうなのだろう。


「あ、あの……?」


「はぁ……」


「ひぇっ!?」


 重い空気をなんとかしようと話しかけたら盛大なため息をつかれる。怖い、初対面の時の記憶が蘇る。僕はまたこの人の手で牢屋へと連行されてしまうのか!?


「いや、すまない。そう怯えないでいただきたい。怒っていないというのは言いすぎかも知れないが、少なくとも原因は貴女ではない。乱暴に扱ってしまったことは謝罪します」


「はぁ……」


「ナツメ様。アオイ様のあの嵐のような殺気は受け流しておられたのに、なぜ今回はそんなに怯えて居るのですか……」


「……??」


 煮え切らない態度ではあるけれど、どうやら本当にリーデル団長は僕に対して怒っているわけではないらしい。横でグレコ隊長が呆れたような顔をしてなにか言っているけど意味がよくわからない。


「それではリーデル団長はどうしてその様なお顔をなさってるのでしょうか?」


「う、むぅ……」


 僕の問に怒りの表情から気まずそうな表情になる。この人がこんなに表情を変えるのは珍しい気がする。


「――いや、そうだな。此の様な事をした以上、理由を話さない訳にもいかないな。とりあえず場所を変えよう。ついて来てほしい」


「大聖堂にいかれるのではないのですか? 教皇猊下がお呼びなのでは?」


「棗君、そういじめてあげるな。リーデルさんは一応、私達のために駆けつけてくれたのだろうからね」


 どういう事だろう? 先輩は何かを察しているみたいだけど。とりあえず僕らはリーデル団長にしたがってその後をついて行く事にした。




 ――――……




 結局、リーデルさんは僕らが大司教に呼び出されたことを聞き、慌てて駆けつけて来てくれたらしい。葵先輩やグレコ隊長達騎士団の人たちも一緒に向かってると知っていればもう少し穏便に出来たとの事だけど、また聖女()が一人で迂闊な行動を取ったのではないかと慌てたらしい。……なんかごめんなさい。


「恥ずかしい話だが、我ら教団は一枚岩ではない。単独での行動は控えていただきたい。仮に大司教クラスの呼び出しがあったとしても、教皇猊下以外からの要請はなるべく断ってもらってかまわない」


「ですが、今回の大司教様の呼び出しは、純粋にこの聖都を憂いてのこととお見受けしましたが。異常繁殖(スタンピード)の話はどうなさるのですか?」


「異常繁殖?」


 リーデル団長は怪訝な顔をした後考え込むように沈黙する。異常繁殖の話は知らなかったのかな?


「……それは大司教が言っていたのか?」


「はい」


教会聖騎士団(テンプルナイツ)第三分隊が調査中全滅したので私達に協力の要請をなされておりました」


「第三分隊が全滅……その様な報告は受けていないな」


 あれ?

 教会聖騎士団のトップはリーデル団長の筈なのにこの話が通ってない?


「まあ大司教の命で動いていた分隊だろう。そう言った報告が遅れることは確かにある。それに大司教の選んだ分隊であるなら優秀な騎士だったのだろう。それが全滅したとあれば確かに由々しき事態ではある。が、賓客である勇者様方を巻き込もうとするとは……愚かな」


 僕達の話を聞くに連れて、リーデル団長の眉間に元々深く刻まれていた皺がどんどん深みを増していく。うわぁ、この人普通にしてたら凄いイケメンなのに、苦労のせいですごい形相になってるな。実際何歳なのかは分からないけど、多分実年齢より老けて見えるのではなかろうか?


「兎に角、皆さんは今回の件は気にしないでほしい。間違っても大司教とその配下……いや、教皇猊下以外からの呼び出しにはついて行かないでほしい」


「リーデル団長はシュットアプラー=デブラッツ大司教を警戒されているのかな?」


「……わからん。確かにかの御仁は先日の廊下での狼藉のような真似をなさる事がある。しかし、深刻な被害に遭ったという報告はないのだ。本人もあれはたちの悪い冗談のようなものだと言っている」


「あれは悪戯の域を軽く超えていたと、私は思っているがね?」


「俺だってそう思う。だが、被害者がいない(・・・・・・・)のだ! 失踪者などが居るわけでもない。大司教に狼藉を働かれたという被害の報告もない。何かが可怪しいのは確かなのだが、証拠の有無だけで言うのであれば、かの御仁は潔白だ……」


 僕もあのときの大司教は怖かったし危ない人だと思ったけど、今日の大司教様は真剣に聖都の事を想っているように感じた。何がなんだかわからないな。


「声を荒げてすまない。兎に角、貴女方は何もされる必要はない。異常繁殖の調査の件も私達に任せて頂こう」


「あ、ちょっ!」


「後の事は何も心配せずに、ゆるりと聖都観光を楽しんでいただきたい。くれぐれもおかしな行動はされぬようお願い致します。それでは俺はこの辺で」


 なんで僕を見ながら言うのかな? こういう場合一番警戒すべきは葵先輩の方だと思うのになあ。やっぱりリーデル団長の中の僕の評価が悪すぎる……まあ自業自得なのだけど。


 なんとか汚名返上名誉挽回したいけど、聖都に来てから散々勝手な事して怒られているからなあ。でも、本当に魔物の異常繁殖なんて事が起こっているなら、僕の回復魔法はきっとお役に立つはずだ。なんとか一緒に付いていきたいのだけど……あ、睨まれた。団長様は勘が良い。


 僕が怯えながら手をふると、リーデル団長は何かを言いかけたけど何も言わず、そのまま踵を返して去っていった。




「……さて、と、棗君」


「はい?」


「今回の件だけどね、私も君が関わるべきではないと思うよ」


「……え?」


 不意に先輩が真面目なトーンで語りかけてきた。


「君の事だから、今日の大司教のしおらしい態度を見て「あれぇ、このおじいちゃん本当はいい人なのかな?」とか考えているだろう?」


「うっ」


「そう言う疑うことを知らない君も純粋で可愛らしいと思うけどね。今回はダメだよ。何を狙って呼び出してきたのか分からないけど、私はあの老人は信用する事は出来ない」


 まるで気持ちを見透かすような目で僕の目を見つめてきた先輩の顔は、普段とは違って凄く真面目な表情だった。


「なぁに、リーデル団長に任せておけば大丈夫だよ。彼らはこういう事のエキスパートだからね。私達のような素人より余程上手くやるはずさ」


「……」


 先輩が言ってることは多分正論だ。確かに大司教様は信用できない。



 ……でも、でもだよ。


 大司教様の言葉が本当なら、あの犠牲になっていた第三分隊は精鋭中の精鋭だったんだよ? それはリーデル団長たちと比べてどの程度違うのかは分からないけど。でも、きっとリーデル団長達と比べても遜色の無い練度の部隊だったんじゃないの? 僕達は、こういう時のために女神様に遣わされたんじゃないの?


「……そんな顔をしないでほしいな。私は棗君にあまり危ない事して欲しくないだけなんだよ。そんなに心配なら彼らには私が同行するよ、それなら君も安心だろう?」


「で、でも、先輩」


「……いいね?」


「……はい」


 いつもと違って強い声。本気で僕の事を心配してくれてるんだと思う。やっぱり今回僕が付いていくのは皆の迷惑にしかならないのかな? 周りを見回すと、グレコ隊長も騎士団の皆さんも頷いている。皆も今回の件に僕が関わるべきじゃないと思っているんだね。


 ――結局この後は僕も言い返すことは出来ず、そのまま帰路につく事となった。


 皆が僕の事を心配してれくれているのは分かるんだけど、どうしても心が納得できない。だって僕も皆の事が、葵先輩のことが心配なのだ。


「……あ!」


 納得できない気持ちを抑えながら宿につくと、僕の部屋の窓に止まる小鳥を見つけた。




 ――――……




「――よう、そっちはどうだ? 俺は今日もウォルンタースさんに絞りに絞られてっぞ」


 宿に戻って急いで部屋に戻ると、思った通り秀彦(ゴリラ)からの手紙が送られてきていた。なんだか最近は毎日届いてる気がするな。あいつもなんだかんだこっちの世界で一番仲の良い僕と会え無いのが寂しいのかもしれない。でかい図体なのに仕方ないやつだな。


「まあ毎日やってるからな、そろそろ何か掴めそうな気がするんだけどな。明日は俺が勝つ!」


「ふふふ、お前一昨日も同じこと言ってたじゃないか」


 どうやら未だにウォルンタースさんに歯が立たないみたいだな。レベル差はもう殆ど無いはずなのに、やっぱり騎士団長の肩書は伊達じゃないね。どうしてもスライム事件を思い出しちゃうから、僕の中ではウォルンタースさんが強いイメージが沸かないんだけどね。


 この後も今日あった事とかそんな、何気ない報告が続く。正直コイツの声を聞いているだけで、今日あった嫌な気持ちが薄れていく気がする。


「……そうだ!」


 秀彦に相談してみよう。秀彦なら、ひょっとしたら何かいい案をくれるかもしれない。それに、コイツにも反対されたなら、それはやっぱり危険すぎるって事なんだろうから、僕もあきらめが付く。


「でな、そこで俺の背負投げが決まって勝てる予定だったんだけど、あのオッサンもう柔道に対応しかけててな……」


「ふふ、それにしても訓練の話ばっかりだなお前は」


「それで結局受け身とられて「ヒデヒコ様ー?」んおっトリーシャ!?」


「むむっ!?」


 こ、この声は!?


「あ、こんなところにいらっしゃったのですね。ん、また聖女様にお手紙ですか?」


「ん、あーまあそうだな」


「ダメですよ、さっき騎士団長様に投げられて、思いっきり気絶してたじゃないですか。病み上がりで起き出しちゃダメですよ! ちゃんと養生してくださいまし」


「あ、おい、引っ張るなって」


 ……あ? なんだこれ。(ビキビキビキ


 目の前の映像記録には後ろからヒデヒコを引っ張る可愛らしいメイドさんと、それにやんわりと抗うゴリラ(バカゴリラ)が映し出されている。おう、なんだゴリラ? お前の取り柄はそのバカでかい図体と馬鹿力だろう? なんでメイドさんに引っ張られてオロオロしてるんだ? もっとちゃんと抵抗してみせろよ……あ?(ビキィ


「ま、まあ、そんな感じだ。お前も色々大変だろうけど、お、こらトリーシャ。よせ、ひっぱるな」


「もう、これは元気になってからなさってくださいませ!」


「じゃ、じゃあな棗。バタバタしてわりぃ。今回はこれで切るわ!またな!!」



 ブツン……





 …

 ……

 ………


(ビキビキビキ(第三回)) 




 何だ今の不愉快な手紙は、気がつけば僕の陰鬱とした気持ちは綺麗に吹き飛んでいた。流石親友からの手紙は元気(憤怒)が出るね。早速お返事書かなきゃ。ふふふ……




 僕の胸元でマウスくんが昼間のように震えていた……



「棗君、あのゴリラ酷いと思わないかい?」


「確かにひどいですよね(頻繁にメイドといちゃつきやがって」


「初日に「元気か?それじゃあな」って映像送ってきたっきり一回も手紙くれないんだ。君だってもっとアイツの声とか聞きたいだろう?」


(……アイツ先輩には手紙送ってないのか)


「毎日こっちから20通くらい手紙送ってるのに酷いよね!」


「……それが原因なんじゃ?」

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