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第二十三話 ゴブリン戦

後書きの方に葵ラフデザインあります。見たくない方はお気をつけて。

23




 次の日。僕らは数人の騎士と一緒に城下町を離れ、近隣の森に来ていた。ウォルンタースさんは流石に城から離れることは出来ないため今日は来ていない。こちらに来てからずっとお世話になっていた人なので、居ないとなると少し寂しさも感じる。


 馬車に揺られて2時間ほどの距離なのでそれ程離れていないこの場所に、魔物が棲み着く森があるっていうのは驚いた。森は現代日本と比べてそう変わるものではなく普通に木漏れ日もある明るい普通の森だったし、中には馬車が通れる程度の舗装はされている道すらあった。


「なんか思ったより普通の森だな?」


「そ、そうだね」


「棗、こっち見てみろよ、猿がいるぞ!」


「そ、そうなんだー、珍しいねー」


 秀彦は馬車の外に身を乗り出して風景を楽しんでいるらしいけど、僕はそれ所じゃない。昨日のコルテーゼさんの話を聞いたせいで、ものすごく秀彦を意識してしまっているのだ。


 あ、意識と言っても異性としてドキドキするとかじゃなくて。ヒデとの距離というか言われてから気がついたけど、確かに騎士のみなさんが偶にこちらをチラチラ見ている視線を感じる。どうやら僕とヒデの事を見ているみたいだ。だから今日、僕は敢えてヒデから距離をとって葵先輩の横に座ってるんだ。……でもちょっとだけあいつと一緒に景色を見てみたい気もする。猿……僕も見たい。


「ん~、どうしたんだい? 棗君。猿、見に行かないのかい? 君ああいうの好きだろう?」


「な、ななな、葵先輩までそんな、ぼ、僕は別に秀彦のことなんか好きなわけじゃ……」


「……ヒデ? 何を言ってるんだい。君、猿好きだろう? 森の景色とか」


「あ、あぁ……猿ね、うん、猿とか好きだよ? でも今日は葵先輩の横に居たいって思って。駄目?」


「プォッッフォオオオオォォゥ!! 棗きゅうぅん!? 棗きゅんが遂にデレた! デレたんだねええ、良いとも、あんなゴリラ(秀彦)の所に行って(小秀彦)なんか眺めることはないよ! 私と、一緒に、くんずほぐれつ、グフォッ……」


「調子に乗らない!」


 先輩はすぐに調子に乗る。これさえなければ本当に綺麗で優しい最高の先輩なのになぁ。僕はため息を吐くと、いつものキラキラを出してる葵先輩を放って森を眺める。視界には無邪気にはしゃぐゴリラと、森の綺麗な景色が見える。いいなぁ、僕も見に行きたいなあ。


 む、外を見つめていたらなんか騎士さんがこっちを温かい目で見つめてきてる。


 ……は!? 違う、違うぞ! 僕はゴリラを見つめているんじゃなくて景色を見ているんだ! やめて、そんな目で僕を見ないで!


「うう、コルテーゼさんのせいで~」


「なんだい、メイド長に何を言われだい?」


「何でもないですよー」


 本当に困る、顔が熱いのはコルテーゼさんのせいだ。




 ――――……




 暫く進むと馬車が止まり、騎士さん達が物資を下ろし始めた。僕も葵先輩と秀彦と一緒に馬車を降りて装備品を取り出す。僕たちが装備している女神様に貰った聖遺物(アーティファクト)は、常に持ち歩かなくても亜空間に仕舞う事ができるので便利だ。どうやら女神様の所に一時的に送ることで収納可能になるらしく、女神様の作った聖遺物でしか行うことが出来ないらしい。なので僕はずっとローブとアメちゃんを装備したままだったけど、秀彦と先輩は馬車に乗っている間は聖遺物は装備していなかった。


 まあ、あんな重い物ずっと持ってたら大変だからね。先輩は軽装鎧をお城で貰ったらしく、それを身にまとっていたけど、秀彦は普通の服に剣一本と非常に身軽な感じだった。だけど今は重鎧と巨大な盾を持っている。正直この便利機能がなければ秀彦は大変だっただろうな。って、騎士の皆さんはその大変なことをずっとやってるんだった。


「それでは、これより森に入ります。皆様用意は良いですか?」


「はい!」


 騎士のみなさんが先行し、森を切り開いていく。何も道のない森と言うものが、ここまであるきにくいものだとは思わなかった。しかし、暫く進むと突然森が開け、少し歩きやすくなってきた。


「皆様、ゴブリンの通り道に入りました、ここから先注意して歩いて下さい」


「はい」


 どうやらこの辺りはゴブリンたちが通り道に使っているらしく、草は刈られ、踏み固められているらしい。僕らにはまだわからないけど、騎士の皆さんはもうゴブリンの気配のようなものを感じているのかもしれない。


「……皆様、声を上げずに前方を御覧ください」


「……あれがゴブリン」


 騎士さんの指差す方向を見ると、そこには緑色の肌をした小さな人影が見える。後ろ姿は猫背の子供に見えるけど、顔は恐ろしく醜悪。高い鼻に釣り上がった目つき、口からは揃いの悪い牙がはみ出し、ガラガラのだみ声で何かを話しているようだった。もし日本で見かけたら恐ろしすぎる風貌だな。


「それでは皆様、我々はここで見守っておりますので、早速あれ等を狩ってきて下さい」


「はい!」


 いよいよ始まるんだ、凄く緊張する。……あれ、秀彦は普段通りだし、葵先輩は妙に楽しそうだね、緊張してるのは僕だけなの!?


「それじゃあ私がこの手斧で釣りをするから一匹ずつ倒して行こう」


「おう……ん?釣り?まて、姉貴……」


「そぉい!」


 先輩の投げた手斧は見事に一匹のゴブリンの頭部に突き刺さり絶命させた。結果、残りのゴブリン三匹の視線が一斉にこちらを向く。


「おや、間違ったかな?」


「巫山戯んな、このゲーム脳! 相手は生き物なんだから一匹ずつゲームみたいに釣れるわけねえだろ!」


 よくわからないけど、どうやら先輩はゲーム的なお約束をかまして失敗したらしいな。一撃で一匹仕留めたのは凄いけど、この状況は酷いんじゃない? 一斉に向かってくるゴブリンは、体は小さいけど中々に恐ろしい。


「仕方ねえな! おら、こっち向け、戦士の咆哮(ウォークライ)!!」


 戦士の咆哮(ウォークライ) 戦士職の基本技、雄叫びを上げることによって、魔物の視線を集めるという良く分からないスキル。僕にはいまいちピンと来てなかったのだけど、タンクには必須のスキルだったらしい。


 こちらに向かっていたゴブリンは、スキルを受けた直後から全員秀彦に殺到しており、一匹もこちらには来ていない。成る程これはすごく便利なスキルだ。よし、僕も手助けしないと。


「神よ、かの者を守り給え神聖なる盾(ハイリヒ・シルト)!」


 僕の法力が放たれると、秀彦の体を白い光が包みこんだ。すると、先程まで盾で受けきれなかった棍棒に顔を歪めていた秀彦の表情が変わる。どうやらゴブリンの攻撃のダメージがしっかりとガード出来ているらしい。


「お、棗ナイスアシスト! こりゃ楽でいいや。よし姉貴、そろそろ一匹よろしく! 盾撃(シールドバッシュ)


「良いともさ」


 秀彦は群がるゴブリンの攻撃をさばきつつ、その中の一匹を盾で吹き飛ばす。体勢を崩されながら吹き飛ばされた哀れなゴブリンは、直後、体と首が永遠の別れをする事になった。葵先輩の斧は正確無比にゴブリンの首を横薙ぎに切断していく。すごい威力である。


「どんどん行くよ!」


 葵先輩がゴブリンを仕留めると、直後に次のゴブリンが盾撃を食らわされてこちらに飛ばされて来た。そして流れ作業のように葵先輩がそのゴブリンを仕留めていく。正直僕は、はじめての戦闘で緊張してしまっているのだけど、先輩と秀彦は全く気負った感じがない。このへんが武原姉弟は凄い。気持ちの切り替えが早くて柔軟なのだ。


「棗、そっち行った、ぼーっとするな!」


「へ、うひゃっ!?」


 二人に感心していたら、ゴブリンの一匹がこっちに走ってきた。その必死な形相に僕の体が硬直してしまう。稽古や喧嘩の時には感じなかった本物の殺気。僕を、必ず殺す、そう言う気概。そんなゴブリンの目を見てしまったら、情けないことに僕の体は固まってしまっていた。迫る脅威に僕の手足は痺れて動かない。こんな事、日本に居た頃には一度もなかったのに。怖い……。


 ゴブリンの振り下ろす棍棒が妙にゆっくりに感じる。それはゆっくりと僕の頭に向かって振り下ろされ……。


「ッッッ……へ?」


 僕はやがて来る衝撃に怯えて目を閉じてしまっていた。正直格闘技をやっていた者としてありえない失態だったと思う。しかし、直後に襲ってくるはずの衝撃は、僕には訪れなかった。


「おいおい、大丈夫かよ、らしくねえぞ?」


「……あ」


 僕が恐る恐る目を開くとそこには額から少量の血を流すヒデの顔があった。突然間近で見てしまった為に胸がドキリと高鳴る。


「ギリギリだったから盾が間に合わなくて一発良いの貰っちまった。棗は怪我してねえか?」


「あ、うん……」


 そう言う秀彦の後ろで、秀彦を殴りつけたゴブリンは既に葵先輩に首を飛ばされていた。先輩、なんで首に拘ってるんだろう。……あ、そんな事より。


「ヒデ、血が……ごめん、ごめんね」


「ん? おう、直撃だったけどお前の法力……だったか? アレのおかげであんまり効かなかったぜ、回復してくれ」


「うん、本当にごめんね、僕の不注意だった」


 両手で秀彦の顔に触れながら回復の法力を注ぎ込む。


「気にすんな。お前は後衛で俺はタンクだからな、こう言うもんだろうよ。それよりお前に怪我がなくてよかったぜ」


「あう……」


 そう言いながら大きな手で僕の頭をワシャワシャ乱暴に撫でてくれる秀彦。あんなミスをしたのに責めるでもなく笑ってくれるこいつは本当に良いやつだなって思った。


「一匹逃しちまったのは俺のミスだし、不注意で固まったのはお前のミスだ。次は気合入れてくぞ、副将!」


「へ、あ、うん、分かったよ大将!」


 僕らは部活時代そうだったように拳と拳を突き合わせる。そうだよ、コルテーゼさんが何言ったって僕らはこういう関係なんだ。だから何もこんな事気にしてギクシャクすることなんかなかったんだ。そう思ったら何だかさっきまでの僕がとても滑稽に思えてきて、思わず笑ってしまった。


「うーん、折角私がかっこよくゴブリンキルしたのに、二人でイチャイチャするのはどうかと思うなあ……」


「「イチャイチャしてないっ!!」」


 先輩が馬鹿なこと言うから声がハモっちゃったよ。本当にそう言う目で見るのは止めて欲しいな!!

 


ラフですが葵はこんな感じの装備です。顔は清書するときに変えるかもです。








挿絵(By みてみん)

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