表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/144

第二十話 紫の相棒

20




 中年男のスライム陵辱という地獄を乗り越え、何とか脱出に成功したウォルンタースさんは小さい声で「服を取ってきます……」とつぶやいて部屋を後にした。心なしか小さくなってしまった背中に哀愁を感じるけど、ウェネーフィカさんは楽しそうに笑ってた、お婆ちゃん……相当いたずら好きみたいだね。


「クカカ……ふう、笑った笑った。ウォル坊やはいつも良いリアクションをするから止められなくてね。驚かしてしまって済まなかったね」


「な、なるほど、それでウォルンタースさんはあんなに緊張されていたんですね」


 かわいそうに、毎回あんなひどい目に会ってるのかあの人は……。


「それじゃあナツメちゃんは婆と一緒にこっちにおいで」


「でもウェニーお婆ちゃん、僕は聖女だから、多分ウェニーお婆ちゃんの魔法は使えないですよ?」


「はぁぅっ、お婆ちゃ……く、強烈な御孫(パワー)……これが勇者召喚者の力」


「……え?」


 何かを小声で言っていたけどよく聞き取れなかったな。僕がウェニーお婆ちゃんの名前を呼ぶと、お婆ちゃんは胸を抑えてうずくまってしまう。ひょっとして無礼すぎて怒ってるのかな?


「ひょっとしてお婆ちゃんって呼ぶのも嫌ですか? そしたらどうしようかな……」


「いやいやいや! 大丈夫、大丈夫だよーナツメちゃん。ウェニーお婆ちゃんじゃよ、ナツメちゃんのウェニーお婆ちゃんじゃよ」


 僕が新しい呼び名を考えようとしたら、顔を真っ青にしたウェニーお婆ちゃんがもの凄い勢いで僕を止めてきた。お婆ちゃんって呼ばれるの怒ってないのかな?


「お婆ちゃんって呼んで大丈夫?」


「もちろんじゃよ、もちろんじゃよ~ナツメちゃぁん!!」

 

 今度は顔をしわくちゃにして喜んでくれてる。うん、どうやら本当に嫌がってないみたいだね。良かった。何だか嬉しくなって来ちゃったから僕もニコニコしてたら、またお婆ちゃんが蹲ってしまった……ひょっとしてお体が悪いんだろうか。背中をなでてあげたほうが良いのかな?

 

「……何をされているんですか? ウェネーフィカ様」


「……チッ、早い戻りだね、ウォル坊や」


「舌打ちですか!?」


 声の側を見ると、そこには服をちゃんと着込んだウォルンタースさんが立っていた。良かった、さっきの姿は余りにも哀れすぎて目のやり場に困ってしまうものね。それにしてもウェニーお婆ちゃん、ウォルンタースさんには当たりが強いなあ。出来れば仲良くしてほしいのだけど。あの地獄を繰り返さないためにも……。


「あのねウェニーお婆ちゃん、ウォルンタースさんにも、あまり酷い事しちゃ駄目だとおもうよ?」


「もちろんだよナツメちゃぁん! どれ、ウォル坊や。飴ちゃんいるかえ?」


「えぇ、ウェネーフィカ様!?」


 優しく笑うウェニーお婆ちゃんの姿に、ウォルンタースさんは信じられないものを見たという表情になっている。お婆ちゃん、今までウォルンタースさんに何をしてきたのさ。僕の前では凄くニコニコと良いお婆ちゃんなのにねえ。


「と、兎に角。ウェネーフィカ様、今日ここに来ましたのは……」


「ふむ、みなまで言わなくても分かるさ、私のコレクションだろ?」


「コレクション……?」


 僕が首を傾げていると、ウェニーお婆ちゃんは椅子から立ちあがり、部屋の奥へと歩いていく。


「ほらほらナツメちゃん、婆に着いていらっしゃい」


「ウェネーフィカ様、言葉遣いまで変わられて……いったい何をなさったんですかナツメ様?」


 恐ろしいものを見たと言わんばかりのウォルンタースさん、小刻みに震えてる。余程ショックらしいけど、僕は何もしてないんだよね、ウェニーお婆ちゃん最初から優しかったし。多分、ウォルンタースさんの事が好きすぎて意地悪しちゃってるのかな? 良く分かんないけど、ウォルンタースさんにいたずらするのはウェニーお婆ちゃんの楽しみなんだろうね。


「僕はただウェニーフィカ様が呼び方を変えてほしいというから”ウェニーお婆ちゃん”って呼んだだけなんで、なんでと言われても困っちゃうのですよね……」


「ふぅむ……一体何が……」


「ほら、無駄口叩いてるんじゃないよウォル坊! 全く体ばっかり大きくてのろまな子だね!!」


「どうやら私にはいつもどおりのままのようですね」


「お婆ちゃんだめですよー」


「はぁいー、ナツメちゃんは優しいねー」


「……」


 あ、ウォルンタースさんが見たこと無い顔してる、すごい顔だなー。お婆ちゃんはお婆ちゃんですっごいニコニコしながら僕の手を握ってるし、何でこんなに気に入られちゃったのかな?


 やがて、いくつかの扉をくぐった奥に下に降りる階段が現れ、そこを下った先に鉄の扉が現れた。


「……ここは?」


「私のコレクションを展示してある場所だねぇ、よっ!」


 お婆ちゃんの手から魔力が流れると、鉄の扉に光り輝く魔法陣が浮かんできた。やがてその光はドア全体に広がり光の色が青から赤に変色をすると、カチリという音が鳴り扉がひとりでに開く。やたらかっこいいけどこれって魔法の鍵みたいな物なのかな? 演出とかじゃないよね?


「さぁ、ナツメちゃんや、中へお入り。ここが婆のコレクションルームだよ」


「……うわぁ」


 お婆ちゃんに手を引かれて部屋に入ると、そこには壁一面に綺羅びやかな杖が並んでいた。


 美しい宝玉に、絢爛豪華な装飾。そこにあったのは一目で分かる程、質の良い魔法杖の数々だった。


「本当はナツメちゃんになら全部あげても良いのだけど。決まりだからね、この中から一つだけ好きなものを選んで行くと良いよ。どれを選んでも良い物だっていうのは、この婆が保証するよ」


「え、この中からですか?」


 こんな凄そうな杖を僕に!?


「ごめんねぇ、一個しか上げれなくて」


「違いますよ! こんな凄そうな杖、ただでなんて貰えませんよ!?」


 どう見たってこの杖全部もの凄いやつでしょ、ひょっとしたら一本で小国が買えるとかそんなやつでしょこれぇ!?


「まあここにある杖は、物によっては小国の国家予算でも買えない様な物も混じっておりますね」


 ほらぁ!? やっぱりそうなんじゃん。ていうか、まんま過ぎてドン引きだよ。そんなの貰ったら壊さないかどうか心配すぎて僕の胃がねじ切れるよ!?


 ……うう、僕の気も知らないで、お婆ちゃんはニコニコしながらこっち見てるし。


「あのー、もうちょっと普通のやつでも……」


「駄目です、ナツメ様やヒデヒコ様、そして何より、勇者アオイ様。貴方方は私達の希望なのです。装備はただ良いものを持てば強くなるなどと単純なものではありませんが、それでも良い装備をしている者と粗悪な装備の者では生存率は大きく異なります。是非最高の杖をお持ち下さい」


 えぇ、最高のって言われても、僕には杖の良し悪しなんて良く判んないよ? しょうがない、一番無難そうで御安そうなやつを探そう。国家予算杖とか恐ろしくて持ち歩けん!


 お婆ちゃんは変わらずニコニコ見つめてるなあ、ウォルンタースさんは緊張した顔してる。試しに一つ近くで見てみると、どれも綺麗な装飾がなされてて、凄い力を感じる。近づくだけで、圧倒されちゃう感じだね。青い杖、赤い杖、氷でできた杖や、炎で出来た杖まである、これ持てるの? あ、白くて可愛いやつもあるね、これなんかも良さそう。でも、どれもこれも、何というかオーラが強くて触るのも憚られる……。


「うぅ~、どれも凄すぎるよぅ……」


 お婆ちゃんの方をまた見てみる、何かヒントを下さい、無難なやつを選ぶヒントを~。って、よく見ると、顔はさっきと一緒でニコニコしてるけど、目がなにか違う。何だろう、これは期待? 少なくともさっきまでとは何か違うものを感じる。うーん、どういうことなんだろう? プレッシャーに負けそうな僕は、手近なもので済まそうかと小さなワンドに手を伸ばす。


 ……こぢんまりとしたワンドだから良いかと思ったけど、これもなんか違う。触った瞬間に気圧されてしまう。これは杖の方から拒絶されてるのかな? 相性が悪いものとかもあるのかもしれない。


 とりあえずそのワンドを元の場所に戻すと、おばあちゃんから強い視線を感じる。何だろう、気のせいかな? 僕が杖を戻すとお婆ちゃんの目がちょっと嬉しそうに光るような?


「ゆっくり選んでいいんじゃよ? ナツメちゃん」


 お婆ちゃんはそう言ってくれるけど困った、どの杖もちょっと僕には豪華すぎるのか、なぜか持ち歩く気になれない。もはや触るまでもなく違和感を感じるのだ……


「……ん?」


 暫くウロウロしていたら、部屋の一角にちょっとだけ奥まったスペースが有ることに気がついた。


 恐る恐る覗いてみると、そこはこの部屋の中では珍しく、ほとんど光も差し込んでおらず、一見すればなにも無いようにも見える薄暗い場所だった。


 ……でも、なんだろう。なにか気になる。


「何か、ある?」


 薄暗いスペースの更に奥、ほとんど何も見えない隅に、薄っすらとなにかの輪郭が見えた。


「これは、これも杖だね?」


 手にとって見るとそれは確かに杖だった。滑らかな手触りだったけど、蔓が巻き付いているのかな? 何かが手に触れる。素材は、触った感じでは木のような気がする。ちょっと明るいところで見てみよう。そう思って部屋に戻ると僕は息を呑んだ。


「綺麗……」


 その杖は、暗がりではよく見えなかったが実にシンプルなデザインだった。ローズウッドの様な赤みがかった木材で出来ており、形は節くれだって真っ直ぐですら無い。更には蔓のような物が巻き付き、赤い葉すら生えていた。


 そして、その上部には木の杖に掴まれているかの様に、巨大なアメジストが嵌っている。


「アメジスト、僕の加護石……」


 思わず石に触れるとゆっくりの僕の魔力が流れこみ、石の中で優しい紫の光が動き出す。心なしか杖全体が暖かくなった様な、そんな感覚を覚えた。杖からあふれる光は、僕に安心感を与えてくれるような気もする。


 ……決めた!


「ウェニーお婆ちゃん!」


 僕が振り向くとお婆ちゃんは心底嬉しそうに微笑んでいた。


「この子を僕に下さい!」


「もちろんいいよぉ、ナツメちゃん。よく見つけたねえ。婆は何故か貴方がその杖を見つけると思っていたのよ」


 これが僕の相棒、紫石の宿り木アメテュトゥス・ウィスクムとの出会いだった。




 ――――……




「それで、何でウェネーフィカ様はナツメ様にあそこまでデレッデレになったんですか?」


「……ハッ! お前と違ってあの子には凄まじい力があるんだよ!」


「ふむ、流石は聖女様、して、その力とはどの様な力なのですか?」


「御孫力だよ……」


「……そうですか」



ストックが……減っていく……怖い……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ