モノクロだった世界が色づく瞬間。
よろしくお願いします
「明日、小学校で運動会やるんだ。来てよ。」
5月末、初めて声をかけられた。
ーああ、この子この前「石川五右衛門」の話してた子だ。
“ねーね、先生って頭いいの?”
“うん、君らよりかは”
“え、じゃあ石川五右衛門って知ってる?”
“あれでしょ、釜揚げにされちゃった
人”
“ふふっ、それ映画の影響?にしても違げーよ”
“うるさいな、このがきんちょ”
私は3日前の会話を漠然と思い出していた。
その時にはそのくらいにしか思ってなくて、正直誘われたことに戸惑っていたけれど、すっと通った鼻筋、勝気な目、片方だけ上がった唇。
よく見るとすっごく整った顔。
思わず予定を確認してみるが、6月4日は大好きなミスチルのライブの日だった。
「…その日は、ライブの音漏れ聞きに行くからごめんね!…あ、来年は絶対行くから!」
断るだけならまだしも、来年は絶対行くだなんて変なフォロー、入れてしまう。
すると、その子は真剣な眼差しで私の方を見て言った。
「来年かぁ…分かった、絶対来てよ?」
その日、その子は国・数のプリントを5枚づつ、1時間ほどで終わらしてしまった。
ずいぶん早いんだねって思わず呟いたら、「そうだよ、俺賢いから!」ってニコニコ笑ってくれる。
可愛すぎか。
これからこの子と仲良くなりたい、心の隅でそう思った。
成績表を見ると、名前は「友成」。
とも…な、り?
まぁ、いいや。
きっとこの先、わかる日が来るだろう。
今まで味気なかった教室。
そのモノクロが一気に色づいた1日だった。