生きる!
足が震え、膝が笑い、手は剣を持つのに精いっぱい。
せめて不意打ちをすればもっと有利になっただろうに。
俺は体中震えながら、
「彼女を離せ!!!」
なんて叫んでいた。
バカだよな、ほんといろいろと。
相手は魔物3匹。
対してこっちは喧嘩もろくにしてこなかった男一人に捕らわれた女性一人。
どう考えたって俺の圧倒的不利。
でも、もう後に引けない。
引く気もない、といえば嘘になる。
でももう遅いぜ!!
後悔してるかって? してるに決まってんだろ!!!!!
ゴブリンたちが何か話し合ってる。
話し合ってるかどうか知らないけど。
会議の結果、女性を投げ捨て、俺に襲い掛かってきた。
まあそうなるよね。
とりあえず俺は女性に
「今のうちに逃げろ!!」
って叫んでおいた。
この戦闘の勝利条件は二つ。
①女性の救出
②俺の生存
①は言うまでもない。死んでしまったら俺が飛び出した意味がない。
②も当然。俺が死んでしまったらそれこそすべての終わりだ。
つまりなにが言いたいかというと。
あいつらを倒す必要はないわけだ!!!!
やったぜ。
そんなこと考えてた俺をぶちのめしたい。
戦って1分も経ってないないがわかったことがある。
あいつら速い癖に力も相当ある。
つまり考えていた最高のパターン「女性を抱えて逃走」が出来ないわけで。
女性が勝手に逃げてもゴブリン1匹が追って、捕まっておしまいだ!
つまり勝利条件を満たすにはゴブリン3匹を全て倒す必要がある。
……誰か助けてくれないかなぁ
紙一重、とは言わず大き目にゴブリンの棍棒振り下ろしを躱す。
剣で受け止めたら腕が大変なことになりかけたので当たってはいけない。
……じいちゃん俺、剣道やっててよかったよ。
そんなわけで躱した勢いで面を叩き込む。
ただしいつもとは違う。竹刀ではなく真剣で。
ゴブリンの一体は俺に切り裂かれ、倒れそのまま動かなくなった。
これが、なにかを、きった感触。
生きるためとはいえ、生き物を切ったことによる罪悪感がこみ上げてくる。
いや、これが生きるってことなんだ!
今は集中しないと死ぬ!
そうやって無理やり割り切って、戦闘を続ける。 生きるために。
そうして死ぬ思いで3匹倒し、剣をしまう。
女性はどうやらいつの間にか逃げたようだ。
俺は安堵し、木に倒れ掛かる。
「これが、生きる……」
命の重みを実感し、この戦いを胸に刻もうと誓った。
このまま戦いが終わればよかったのに。