海に落ちて童貞がばれる。
――真っ暗な世界。
まるで目を閉じているときのようだ。
いや、違う。
俺はただ目を閉じているだけなんだ。
この異常な出来事から、目を背けているだけなんだ……
「夜釣りしようぜ!!」
この一言から事件は始まっていた。
夏の暑いある日、友人からそう誘われた。
「お前、よっぽど暇なんだな」
「残り少ない青春、釣りをせずして何をする!!!」
いや、青春を楽しむなら釣り以外にもいろいろあるだろうが。
そういいながらも俺はホイホイと付いて行ってしまったんだ。
「見ろよ!あの魚でかくね!?」
22時。
夜も更けて俺たちは防波堤に来ていた。
「いや見えねーよ! ライト持ってねーの?」
「ない!!」
こいつ何しに来たんだ。
仕方ないから身を乗り出し、それを見ようとしたときに事件は起こった。
いい風が吹いた。
普段ならば何の問題もない。
だがしかし、その風は俺を海に落とすには十分だった。
「あっ、おい―――!」
薄れゆく意識の中で、あいつの叫び声と伸ばした手だけが見えていた。
というのが俺の目が覚めるまでの記憶。
あのまま行けば明らかに死んでいたであろう。
しかし何故か俺は黒い部屋に運ばれ、生きている。
あれ?もしかして俺死んでる?
「いえ、まだ死んでいませんよ」
そりゃそうだよな! 夏とはいえ夜の海に落ちて無事なわけがない。
心残りは彼女いない歴=年齢で童貞で別に好きな女子もできなくて……
「まだ死んでませんってば!!」
「それはおかしいと思います!!!」
思わず叫んじまった。
ていうかなんだこの女。
まだ死んでないってどういうことだよ。
ていうか俺の心読んだ?
「心、読んでます……」
悲報 俺氏、女性に童貞がばれる。