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 戦と邪獣の襲撃という一大事が立て続けに起こり、ムラは犠牲者の埋葬や葬儀、崩壊した家屋の処理や修復に追われる日々となった。

 それでも、どんな状況であろうと、生活はしてゆかなければならない。

 人々はやがて、少しずつでもいつもの日常へと戻っていくのだった。男たちの中には狩りに行く者もいれば、ムラに残って農耕をする者もいた。女たちも、山に木の実や山菜を採りに行ったり、男たちと一緒に農耕をしたりと、色々とすることがある。他にも、首飾りや耳飾りなどの装飾品や、石器などを作るのも、女たちの主だった仕事だった。


「今日は土器を作るよ」


 ある朝、祈祷場にてイチコは言った。


「土器?」


 トモエが訊き返すと、イチコは小さい身体を少しでも大きく見せようとしているのか、仁王立ちをして、大きくひとつうなずいてみせた。


「トモエもここに来て、何日か経つでしょ? そろそろ、ムラの仕事を覚えていってもいいころだよ」


「ああ――そうだね」

 と、トモエは応えた。このまま、何もせず過ごしているのも、甲斐がないと思っていたところだった。


「ほう、土器づくりとな――」


 奥で本日の祈祷の準備をしていたマオが、すだれをあげてひょっこりと顔を出した。


「神前に供える花や供物の入れ物が欲しいと思っていたところじゃ。ちょうどよい、ふたりが作ったものをあてがうとしよう」


「責任重大だぁ――。こりゃ、真剣に作らないと、だね、トモエ?」


 イチコは屈託のない笑顔をトモエに向けた。






 仕事場は、家々の集まる付近の隅にあった。すでに女たちが集まって、準備をしている。屋根などはないが、この日は天気は青空の広がる快晴で、絶好の作業日和となりそうだ。


「おはよー」


「おはようございます」


 やってきたイチコとトモエが挨拶をすると、

「おはよう、イチコちゃん、トモエちゃん」

 とみんな挨拶を返してくれる。


「今日はトモエも土器づくりを手伝ってくれるよ」


「あら、それは助かるわ」


 はじめはどこか遠巻きだったムラの人々も、数日も経てば、徐々にトモエになじんできたようだ。トモエはトモエで、ムラの人たちの多くと、気兼ねなく接することができるようになっていた。


「私がやり方を教えるから、私のやる通りにやってね」


 作業場についたイチコは言って、台の上に粘土を用意し始めた。蛇のように細くした粘土を何重にも重ね、手や器具を使って伸ばしてゆき、隙間をなくしてゆく。トモエもそれにならった。

 イチコの手つきはとても慣れたものだった。トモエのスピードに合わせて、ゆっくりと進めているが、それでも堂に入っている。他の女たちは、トモエを置いて、どんどん次の工程に移っているが、おそらくイチコも普通にやればこれくらいのペースで作業ができるのだろう。

 慣れないながらも頑張っていたら、それなりに土器っぽい形ができた。


「うん、うまいよトモエ。じゃあ――次は、これに模様をつけるよ」


 イチコは別の台に置かれた、木の棒やいろいろな形状の石を手に取り、それらを土器の形にした粘土を引っ掻いたり、押し当てたり、転がしたりして模様を描いてゆく。


「模様のつけ方に決まりってあるの?」


 トモエが訊くと、イチコは粘土に目をやったまま、作業を止めずに言った。


「適当。どんな模様を描くかは、作り手のセンスで決まるんだ」


「ふーん……」


 トモエは周囲の作っている土器を見回した。ただ幾何学的な模様ばかりあしらっているものもあれば、人や動物を模した絵を描いているものもある。イチコの言うとおり、どんな模様をつけるかは、当人の自由のようだ。


(ありきたりなものではつまらないな――)

 と、トモエは思った。せっかくやるのだから、オリジナリティのあるものか、面白いものを作りたい。どうしようか――。

 トモエはふっ、と思い立ち、木の棒を鉛筆のように動かして、何かを描き始めた。ひととおり書き終えると、今度はその回りを星型や丸型などの石を使って、装飾してゆく。できた、とばかりに満足そうな顔を浮かべるトモエに、どんな模様を描いたのかと、イチコは彼女の土器をのぞきこんだ。


「これ何? 女の人? ――それにしても変わった絵柄だね」


「ダメかな?」


「私たちのムラにはないかも。でもまぁ、大丈夫じゃないかな。それにマオさまって、結構好奇心旺盛な人だから、こういう目新しいの、気に入ると思うよ」


 イチコは笑って答える。トモエが描いたのは、幼いころに見て印象に残っていた魔法少女アニメの主人公だった。それは、トモエがユメのセカイで、魔法少女としての自分をイメージしてはじめての変身を遂げた時、参考にしたキャラクターでもあった。

 案の定、イチコは絵をまじまじと見ながら、

「あれ、でもこれって、こないだのトモエの姿に似てる……?」

 と、不思議そうに呟いた。



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