収穫祭の魔王 その2
この年が豊作であるなら、その収穫を神に感謝して。
この年が不作であるなら、次の年の豊作を願うために神に願うために。
古くからこのような収穫祭と呼ばれる祭りは行われている。
このニルバス村には、不思議のダンジョンという観光資源があるが、収穫祭も存在している。
こんな物語と一緒に…。
「ええと、昔、このニルバス村では、ダンジョンからやって来たモンスターが、田畑を荒らし周り困っていました。
そんなある日、若者達は立ち上がり、田畑をモンスターを、ダンジョンに追い返したらしいね」
クラスメイトのクライトは、自分の衣装を確認しながら、ゲンタに説明していたトコロで、自分は改めて、村の様子を眺めていた。
「どうやら、まだ、セリカさんは来てませんね」
「おい、シュロ、セリカさん。今日、来るんだろ?」
背後から、二人ともセリカの様子を探しているのだろうが、自分の視線の意味は違う。
自分だって、ただの祭りなら秘密にはしない。
だが、問題はゲンタの衣装である。
いや、自分も同じ様な衣装を着ている。
その追い払ったとされる若者達の衣装らしい。
この村では、収穫祭の折、毎年、自分達の通う学校の子供たちがその役を演じるのである。
「おのれ、化け物め。
俺たちが、追い返してやる」
ゲンタがクライトに向かって言う、その台詞は祭りの時に言う台詞である。
この台詞…。
一人で言うには大した事ないが、大勢で言えば言うほど、小恥ずかしい台詞であろう。
ただでさえ、祭りという面白ワードに、自分のこの小恥ずかしさを魔王が見ればどう思うだろう?
「うん、来ていないみたいだね」
ほっと、胸を撫で下ろす。
その二人の魔王の気配…。
を、気のせいにする主人公は、第一関門に差し掛かっていた。
「おい、来た様だぞ?」
ゲンタはクライトの手を引っ張り、そっちに行ってしまう。
祭りと言えば『神輿』とは、どこかのヴァンパイアが話していたが、自分達の村は少し違う。
職業、魔物使いのおじさんが連れてきたように、この村では本物のモンスターを使うのだ。
さすがに弱い小動物のようなモンスターなので、心配する事はない。
それに祭り用に仮装させているので、子供たちに人気があった。
「おいおい、シュロも来いよ」
ゲンタが自分を呼び寄せるが、誰がコレを自分にとっての第一関門だと思えようか?
自分は魔界で商いをしている。
それは当然、地上で秘密であるが、モンスターと呼ばれるのはそれを守ってくれない。
言ってみれば、
「あっ、シュロだ」
ところ構わず、指を差してくるのだ。
「ていうか、お前、最近、地上でも指を指されるようになったよな?」
突然、カイリの声が聞こえたが、気のせいだろう。
まず、距離を取る。
「ここでの確認は、このモンスターが言葉をしゃべるか、どうか?」
手順を確認するように呟き、じわじわと距離を詰める。
「ばぅ」
もう一度。
「ばぅばぅ」
「言葉は通じないようですね」
吠え掛けて来るので、ほっとしながら第二関門突破に掛かる。
「知り合いですかね?」
じっと見つめる。
するとそのモンスターも、同じ様な態度をとる。
「アンタ、いい筋してるね。
魔物使い目指してみないかい?」
そんな態度を魔物使いのおじさんに、褒められた。