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シュロの店の星の数 完結

 「さてよ、兄ちゃん、どうしてこんな棒の方が、こん棒より良いのか教えてほしいな」


 外に出て自分を睨むのはこん棒愛好会会長、良く見ると瞳の黒点が縦に細くなっていたので、少し怯んでしまうが、カイリも同じ意見だったらしく。


 「そうだよな、たしかにこっちの方が攻撃力あると思うけどな?」


 こん棒を手にして、バシンバシンと彼女の手を鳴らす。


 そっちの方が身の危険を感じるのは言うまでも無い。


 「あのカイリさん、とりあえず、それから手を離してください」 


 「何でだよ?」


 カイリはニヤニヤとして、自分が取り上げようとしているのを避ける。


 自分の気持ちを察しながらの事だから、半ば諦め気味に言った。


 「それはカイリさんのように、力がある人にとっては、大きな武器ですよ」


 そういって、シュロはひのきの棒を脇に挟んで身構えるなり、振り回した。


 「あら、シュロ、棒術なんて出来たの?」


 「見よう見まねですが…」


 簡単にブンブンと振り回し、曲芸のように大技は出来ないが、こういう事が出来る理由は簡単だった。


 「これは私の初期装備でもあるのでして、この程度の事は」


 『よいしょ』と振り回す様は、


 「やるじゃねえか、シュロ」

 

 カイリを喜ばせ、


 「なるほどこうして見ると人間にとっては良い武器なのかも知れないですね」


 イインチョも納得させていた。


 そして、興味を持つのもカイリである。


 「俺も、やってみたい」


 『貸してくれ』というので、貸すと自分と同じ様に脇に挟むが、


 さすがは魔王。


 一回、素振りをした途端。


 ボキッ


 「ありゃ?」


 脇に挟んで振るという、ありえない素振りの仕方で、ひのきの棒をへし折りなさる。


 こうなると調子に乗るのは、こん棒愛好会。


 「ほらみろ、ボウズ。


 振るっただけで、折れる貧弱な武器が、俺は強いと思えねえな」


 そんな事を言われて、向上委員会が奮起し。


 「いがみ合うのに、いちいち組み合わないでください。


 そもそも、こん棒が上だというには、ゴーレムやら巨人の身体の大きいモンスターがその武器を握っているから、強いと思われているのですよ」


 「確かに一応の装備として、力の強いモンスターにこん棒を持たせたのが、大きな要因となっているかも知れないわね」


 セリカは頷いていたのを見た、ひのきの棒向上委員会はこの機とばかりに言う。


 「セリカ様、では是非ともゴーレムやらに、ひのきの棒を握らせて見てください。


 きっと評価も変わりますので」


 『はは~』と深々と頭を下げていたが、セリカはカイリに言った。


 「そんな事はカイリの方が適任よ」


 「はあ、どうして俺なんだよ?」


 「アンタの部下にゴーレムがいたじゃない」


 一度は悪態をついたカイリだったが、セリカの意見が最もだったらしい。


 「でも、ウコン、サコンやらに、持たせてもなあ…」


 カイリの脳裏には、先ほどブンブンと棒を振り回していた自分の姿と、ゴーレムを掛け合わせていたのか…。


 「ないな…」


 「これはまた、あっさりと断りましたね」


 「理由は簡単だよ。


 そもそも最初は、木を引っこ抜いて武器にしていたのが発祥なんだ。


 そこからあいつ等は手にしやすい、こん棒を装備するようになっただけだからな」


 「それが、そこまで問題だとは思えませんが?」


 「いやいや、問題だよ。


 戦闘の時にゴーレム(アレ)規格の武器を何丁も容易してみろ、他の連中にとっては、通路を塞ぐ木材にすぎないのが現状ってトコだな」


 「なるほどひのきの棒など長さがあってこその武器こうなるとカイリ様の意見も頷けますね」


 イインチョはデコを光らせて、意見に頷く中、向上委員会はがっくり膝を突いた。


 「ま、まさかこんな問題があるとは…」


 だがそれを励ますのは、


 「まだ、諦めるのは、早いですよ。


 巨人が駄目なら、位の高いモンスターに持たせれば…」


 シュロだった。


 「珍しく、シュロが食い下がっているわね」


 「シュロも、初期装備だから愛着あるんだよ」


 魔王二人がシュロの様子を見ていると、ブラドがやって来て。


 「何をやってるんだシュロ?」


 「ブラドさん、これをどうぞ?」


 突然、『へへぇ』とひのきの棒を献上する二人の姿に、ブラドは困惑する。


 「な、なんなんだよ?」


 そうしてダロタがひのきの棒をブンブンと振り回す頃、ようやく今までの事を説明し終えブラドは言った。


 「なるほど、つまり俺を使って、ひのきの棒がこん棒より上だと証明したいわけか、別に構わんがな…」


 ブラドはしげしげとひのきの棒を観察して、シュロに言った。


 「で、これにはどんな魔力効果があるんだ?」


 ブラド本人にしては何の悪気のない一言だったのだろう。


 だが、簡単な話だった。


 位の高いモンスターに、武器を献上すればやはり『性能』を求める者もいて当然なのだ。


 「…ブラド、こっちいらっしゃい」


 そうしてひのきの棒を手にした、セリカはブラドを店内に引きずり込み。


 「!!」


 店が揺れる頃…。


 ひのきの棒を真っ二つに折り、戻ってくるセリカの姿があった。


 そして、プライドを傷つけられた向上委員会を身ながら、セリカは言う。


 「でも、巨人が武器にするってトコロで思ったのだけど、巨人って賢くないのが多いじゃない。


 つまりこん棒って、頭の悪い人が装備する武器なのかしら?」


 その一言に、こん棒愛好会の動きが明らかに止まる。


 「言われて見れば確かに頭の悪い方が装備する傾向がありますね」


 そこに一つの争いが終わった、二人の姿がある。


 一人は人間の規格でないと、価値の上がらない武器の向上を目指した男の姿。


 もう一人は『馬鹿なら誰でも、装備できる』というレッテルを貼られた武器を愛好した男の姿。


 彼等は、ただどんぐりの背比べをしていただけなのかもしれない。


 ただ彼等は争いあう事で、意識の向上を目指していたのだ。


 「俺は馬鹿じゃねえ!!」


 カイリは雄たけびを上げて、吹き飛ばした彼等はもう戦う気力は無く、実に哀愁があった。


 そんな、次の翌週から。


 「シュロ、これ…」


 「ブラドさん、何ですかコレ?」


 あれ以来、自分達の店には匿名で大量の、ひのきの棒とこん棒が送られてきたという。


 彼等の戦いは、終わってない…。


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