シュロの店の星の数 その3
どうやらイインチョは、自分に会わせたい人物がいたらしく『入ってきなさい』と淡々と言うと、二人の男がやって来るなり、自分に名刺らしきモノを手渡した。
「ええと、こん棒愛好会会長に、ひのきの棒向上委員会会長ですか…」
「……」
見かけは人間のように見えたが、触角があるのでモンスターなのだろう。
だが、そんな二人は自分を無視して、にらみ合って。
「あ、あの…」
突然。
「んなあ!」
「んはあ!」
雄たけび一つ、力比べを始めだした。
「ふざけんなよ、この野郎。
ひのきの棒の方がな、リーチがあって使い勝手が良い武器なんだよ」
「ああ、店頭に並べられても、もらえない分際のクセに…」
両者一歩も退かない力比べに、セリカもイインチョに戸惑いを見せていた。
「何よ、アレ?」
「先ほどの名刺通りこん棒を好む会とひのきの棒を店頭に置いてもらおうと日夜活動している組織でございます」
するとイインチョはさらに紙を取り出す。
「紙の多い日ね」
「まだ二枚目で何を言ってますかこれは査定委員会が定めた武器や防具のおおよその価格を記したものです」
「そのようね。
あら、ご丁寧に攻撃力まで書いてあるのね?」
このセリカの問に、デコがキラリと光る。
「そこが今回我々査定委員会があなた方に依頼をしたい項目でもあります」
イインチョが淡々として指し示したのは、『攻撃力』の項目だった。
「こん棒、攻撃力が5…。
ひのきの棒が2…。
この項目がどうかしたの?」
「古来よりこの二つの組織は小競り合いをしておりましたですが査定委員会の設立および査定の結果というのはその古参である組織の争いに拍車を掛けた結果になったのであります」
「要するに結果に納得できなくて、抗議が殺到したですね」
句読点など要いない、彼女の通訳に若干の苦労はしたが、
「争いに油を注いだわけでございます」
彼女は構う事なく淡々としていた。
「そういう事は淡々と言わないでください」
「物事が明確になれば問題なんて山ほど出てくるなんて、当たり前の事とは良く言ったモノよね」
「セリカさんにしては、珍しい意見ですね。
ですが、魔界では、こういう場合、よくあると思うのですよ。
どう対処してるのですか?」
すると、セリカは笑みを浮かべて答えた。
「放っておくに決まってるじゃない」
魔王らしい意見と言えば格好が付くだろうか、それはセリカらしい。
「ところでシュロ、さっき『珍しい意見』って言ったけど、それどういう事かしら?」
二コリと笑みを浮かべ、魔力を高めていた。
「ま、まあ、とりあえず、イインチョさん、この人達に関して私に用事があるとわかりますが、説明してもらえますか?」
「私どもを逃げ口にしないでほしいですねですが新しく発足された私どもではなくこの査定を魔界で唯一人間が営んでいるシュロ様に選んでいただこうと考えたわけでございます」
「要するに私に、こん棒か、ひのきの棒かどちらが上か判断してほしいわけですね」
少し、困った顔を見せたが、セリカは笑みを浮かべる。
「面白そうね、シュロ、やってみたら?」
「いえ、実を言いますと、私はひのきの棒の方が上だと思っている人間ですからね」
それを聞いて、ガッツポーズをしたのはひのきの向上委員会。
怒りを浮かべるのは、こん棒愛好会。
「……」
人間らしい体格で、モンスターらしい眼光をただ放つので、逆に怖い。
「ちょっと、シュロに手を出したら承知しないわよ?」
セリカが前に出るが、
「おいおい、シュロにも意見があるんだから、それくらい聞いた方が良いぞ?」
カイリもいつの間にやら、その愛好会の後ろに立っていた。
「やはりこういうのを貴方に託して正解のようですね」
それを見たイインチョは、デコを再度、光らせていた。