復帰第一戦目のぶち壊し その三
「ほら、ダロタ、そこに穴があるから落ちたら駄目だよ」
魔王二人は、ある異変に気付いた。
こうやってブラド、ダロタに指示を出すシュロは、何にしても魔王の攻撃を避けているのだ。
「小癪ね」
セリカは魔王なのだから、魔法を使えばシュロなど簡単に倒せるではないのか、そう思う者もいるだろう。
「どけよ、セリカ、今度は俺の番だ」
しかし、カイリ同じように罠を仕掛けるのは。
ルールに乗っ取って戦う事にプライドがあるからだった。
そして…。
「あ、当たらねえ!!」
罠の見えるシュロに、こんな無謀とも言える戦法。
吸収・耐性のある装備をしている者を、その属性を持って倒す事のはモンスターの誇りらしいのだが。
「ブラドさん、後ろに爆破のスイッチありますよ?」
「おっ、危なっ。危うく踏むトコだった」
シュロは何の笑いも起きない事をやってのけてしまう。
言ってみればシュロも親切でやっているのだが…。
その様はひらり、ひらりと魔王の攻撃を避ける、避ける。
「魔王相手に今のトコロ100%、すげえ回避率だな」
「カイリ、さすがにシュロと言ったところじゃないの。
この前だって、私の攻撃を避けていたし…」
「お前な…。
人間相手に、普通に攻撃すんな」
「『避けた』って言ったじゃない。
避けた身体は宙に浮いてたけど…」
「どんな経緯でそんな攻撃をしたのか気になるけど…。
命中率0%ってのは、魔王として面目は立たねえわな」
「カイリ、笑ってないで何とかしなさい」
「わかった、わかった・・・」
するとカイリは指を鳴らすと。
ドンッ
手の平ほどの石をシュロ達が、次に行くであろうフロアの先に落とした。
当然、何も無い場所なので、セリカはカイリを睨んだが構う事無く。
「ちと、試して見たいことがあるんだよ」
いたずらっぽい笑みのまま、しばらく待つとシュロがその部屋に入って来た。
予めそこには、鉄の矢が飛び出るというワナが仕掛けられているのだが、シュロは簡単に見抜く。
のだが…。
「よっと…」
カイリは何もない空間にデコピンを放つと、コロコロと先ほどの石が転がり。
そのワナのスイッチを押した。
「あいたぁ!!」
そして、その矢はシュロの…隣にいたブラドのわき腹に『スコーン』と直撃した。
突然の出来事に戸惑う、シュロをみてカイリは頷いていた。
「どういう事なの?」
「シュロはワナには反応出来るけど、発動したワナには反応出来ないって事だよ」
矢じりの付いていないとはいえ、悶絶しているブラドを見て、カイリは嬉々として…。
「ぎゃああ…」
先ほどと同じ様に、ブラドの上に今度は鉄球を転がしていた。
「シュロ。
これでお前に攻撃が出来るぜ。
これが、お前に見切れるかな?」
シュロは戸惑ったのを見てカイリは嬉しそうに、攻撃…、いや、ワナを作動させる。
「うわっ」
もう一度、鉄球のワナを作動させるが、
「ちっ、コントロールが難しいな…」
ブラドを十文字、X線に轢いて、カイリは別のワナを仕掛けているのをセリカはこう言った。
「ねえ、カイリ、これって『ワナを仕掛けて倒す』って事じゃないわよね?」
「良いんだよ。
魔王がルールを守って戦ってどうするんだ?
せっかくのチャンスなんだぞ?」
カイリは魔王らしくルールを、あっけなくそっちのけたのでセリカは呆れはしていたが…。
ダロタの頭にタライが落ちて、戸惑っていたシュロに普段、見る事のないシュロの表情は新鮮味があったのだろう。
「おっ、セリカもやる気になったか…?」
さすがに異変に気付いたシュロとダロタは、そのフロアから抜け出した。
その瞬間。
「ぎゃああああ」
ブラドがここにいない事に気が付いたのと同時に、悲鳴が上がる。
ひと時の静寂、そして、しばらくして…。
「シュロ、ダロタ、どうして逃げた?」
「あっ、生きてる…」
「生きてて悪かったな…。
我ながら不死身っぷりに、自分を褒めてやりたいくらいだ」
「す、すいません、でも、突然、ワナが作動するなんて初めてですから…」
「た、確かにな、普段、注意するお前が、急に反応できないからな…」
「一体、何が起きてるのでしょうか?」
「モンスターの俺が言うのもなんだが、まるで悪魔の悪戯が起きているとしか思えん」
「あ、悪魔の悪戯ですか…」
すると、三人に妙な沈黙が流れたのは言うまでも無い…。
「…もしかしてセリカさん、見てます?」
そして、何も無い空間を同時に見た。
どうして三人は一斉に、ここを見たのか何の根拠も無いのだが…。
「何でアイツら、こっちが見てるのがわかるんだ?」
それは魔王である、カイリですら首を傾げる出来事であった。