第二十一話 今日はブラド抜き 完結編
攻撃力が上がるとは…どういう事だろう?
ここに面白い統計がある。
『そして、彼は雄たけびを上げ、振りおろそうとする腕の筋肉が通常より引き締まった』
など『筋力』を増強するイメージと…。
『その魔法を掛けられた剣は、光り輝き、重さを感じなくなった。
…以下、中略。
まるで羽毛の中に吸い込まれていくように、魔王の闇の法衣を切り裂いた…』
など『ホント』に、この書物に書いてあるように『武器』を強化するといった…。
2つのイメージが強いのである。
だが、どれも面白いモノで『筋力』を上げてしまえば、敵の攻撃を避ける動作にも何かしらの影響があるのだ。
そして『武器を強化』という概念にも同じ事が言え…。
防御力が上がってしまうのである。
そんな走馬灯を味わいながら、ショロの放ったブーメランは勢いよく…。
レッドドラゴンに6ほどダメージを与えた。
…そうしてボクらは、燃え盛る火炎を吐いたドラゴンに焼かれ。
このダンジョンから、追い出される羽目になったのだが…。
翌週…。
「ねえ、シュロ。
毎回、思うのだけど、ダンジョンに追い出されたくらいで、物事を翌週にまわすのはよくないと思うわよ」
「確かに悪いと思うのですがね。
見張りがいますから、仕方がないじゃないですか…。
変に勘ぐりを入れられる前に笑われておいておきましたよ」
クスクスとセリカも微笑む中、テーブルの上に転がっているブーメランは何事もなかったかのように置かれていた。
「つまりセリカさん、序盤でのモンスターには、さっきのワナは効果はあるけど、深部になればなるほど、このブーメランは意味がなくなると言いたかったのですね?」
「そうね、特にドラゴンなんてウロコが厚いでしょうし、あそこまで進入してくる猛者なら、あの程度の気配にいちいち感情を揺らす事はないと思うわよ。
ところでレクターが今回の事で謝りたいから、贈り物だそうよ」
そうやって、指を差すと軽く山のような干物らしき、魚類の群れが届いていた。
「あの騒ぎで巻き込まれた魚類達じゃないですか、さすがにもらう気にはなりませんよ」
そう言って、セリカにあげる事にすると『食料庫にでも放り込んでおくわ』と言うが、やはり本題が気に入らないのか代わりに答えることにする。
「何とかブーメランがワナに使えませんかね?」
そんな中、ドアが開いた。
「ただいま」
「おや、ブラドさん。どうでした、休暇?」
「おっさんの休日なんて、あまり聞くな」
しかしブラドは『じぃ』と、自分の手にしているブーメランを見て聞いて来た。
「シュロ、変わった武器だな?」
どうやらセリカ同様、ブーメランを知らないらしい。
「ブラド、これはブーメランという武器よ…」
セリカはいつぞやの自分と同じように説明を始める。
「手元に返ってくる!!
魔力も要さずにっ!!」
大袈裟だと思うほど目を輝かせるブラド、しかし、セリカはこう付け加えた。
「これでドラゴンに、ダメージを与えた人間もいたそうよ…」
嘘は言ってはいないが、思わずセリカを見た。
「これでドラゴンなんか、怖くないな…」
そう言って、ブーメランを受け取るブラドを止めようとしたのだが、セリカは自分の身体を動けなくさせていた。
「ちょっとダンジョン行って、試してきます」
そう意気揚々とブラドは出て行ったトコロで、ようやく自分の身体を解放した。
「こういうワナなんてどうかしら?」
そうセリカは聞いて来たが、シュロは黙り込んで『じぃ』とセリカを見て言った。
「それはワナじゃないです」