第二十一話 今日はブラド抜き その4
その次の日、探索に出かけたシュロが不思議のダンジョンで見たモノは。
「何しやがる!!」
ダンジョンを探索していた冒険者の団体が何やらモメていた。
「ちょ、ちょっとこんなトコロで喧嘩はやめてください、どうしたのですか?」
ここがダンジョンだからだろうか、冒険者団体様、2団体が頭に血が上って喧嘩していてもシュロに気付いた。
「ああ、コイツが何か投げて来たんだ」
「んだと、お前らが先に何か投げてきたんだろうが!!」
だが、血の気の多く可愛いモンスターでも容赦なく剣を振り下ろせる冒険者達、また喧嘩を再開する。
しかし大の大人達である。それが取っ組み合いの喧嘩してるので、見るに耐えず、逃げるようにその場を離れると。
「てめえ、この野郎!!」
今度はモンスター同士でも同じような喧嘩をしていた。
「あら、シュロじゃない」
すると何も無い空間から、セリカがやって来た。
「セ、セリカさん、これは一体…?」
「ブーメランを見えなくしてワナを作ってみたのだけど?」
どうやら、この騒ぎ、その見えないブーメランが冒険者達やモンスターなりに当たったのが原因らしく。
「そうなんですか、どおりで…あれ?」
少し納得しながら、何かに気が付いた。
「肝心のワナはどこに?」
指輪の効果でワナを見ようと地面を眺めるがそれらしきスイッチが見当たらなかったのだ。
その点に関してはセリカも『わかっている』のか不機嫌そうに答えた。
「ブラドに作らせたのだけど、案外難しいらしくて、辛うじて生きているけど『見えないブーメラン』しか作れなかったのよ」
「『辛うじて生きている』がとても気になりますが、だったら、今のこの状況は…?」
するとセリカは『見なさい』と言って自分の肩に手を置くと、それは見えた。
「ダ、ダロタ?」
ブーメランを手に、布を被ったオークが得意そうに『ブヒッ』と鼻を鳴らして立っていたのだ。
「なるほど、それで作れなかったから、セリカさんの魔力でダロタの姿を消して、冒険者に投げつけて、一応のシュミレーションをしていたのですね」
その際なのだろう、ブーメランの独特の不規則さが他のフロアに飛び込んで行き、モンスター同士でも同じような喧嘩沙汰になったのであろう。
そう解説を入れれば機嫌も良くなるかと思いもしたが、セリカは不機嫌だった。
「…人間だけじゃなくて、モンスターですら怒らせているのですから、結果的に良いと思うのですが?」
「そうかしら…」
そう言ってセリカは説明するより見せた方が良いと思ったのだろう、ダロタを呼び寄せて何かを詠唱すると視界が歪んだ。
すると目の前に広がったのは…。
「おや、これはシュロ君ではないか」
「おわっ!!」
通りすがりのレッドドラゴン、レクターの挨拶に驚いて、状況を掴めぬまま何とか挨拶を仕返していると、セリカは答え。
「ここはダンジョンのそうね…、まあ、深い所といえばわかるかしら…」
そう言いながら、セリカはレクターに何やらを聞いて、案内されていた。
そして、辿り着いた場所は…。
「セ、セリカさん、帰りませんか?」
ただでさえ、レクターの横を横切るのに緊張するというのに、その目の前にいたのは赤、青、黄色に緑、白銀とまるで寝所と化したドラゴン達の眠る部屋だった。
そして、お姫様はこう言った。
「とりあえず、これで試した方が良いでしょう」
『このモンスターにブーメランを投げろ』と言っているのだろう、しかし、ドラゴンにブーメランを投げろというのだ。
「ダロタ、お願いします」
当然、『やりたくない』という意味を込めて、ダロタのいる方に向き直るが、ダロタも頭を下げてブーメランを差し出していた。
「ダロタ、貴方の仕事でしょう?」
首を振って、まるで手を差し出しているように見えるが、しかし、そこには受け取ってはならない『得物』があった。