第二十話 紅のダロタ 完結編
「まあ、仕方ねえわな」
頭を掻きながら、カイリは背伸びをして指を回すと出てきたのは、彼女より大きな火球だった。
「ちょっとカイリさん、駄目ですよ」
「大丈夫だよ、消し飛ぶ程度に済ませておくからよ」
そんな問題じゃないのだが、炎の球体がさらに小さくして、カイリは『よいしょ』と放り投げる。
不思議とゆっくり飛んでいく火の玉、その軌道を見送っていたのだが…。
…先に気付いたのはセリカだった。
「いっ!?」
セリカが自分を抱きかかえて飛び上がったというのを知ったのは、数秒後だったがその時の自分は痛みを感じるだけだった。
そして、次の瞬間、カイリの放った火球がカイリの元に戻ってきたのである。
次の瞬間はもう、爆音しかしなかった。
それほど高く飛び上がったのも原因であったが…。
「なあ、セリカ『跳ね返ってくる』くらい一言、言ってくれねえか?」
さすがは魔王である、Uの字の大地と化した大地を『少し焦げたぞ』程度で済ませていた。
「で、なんだありゃ?」
カイリの指差す方向は、言うまでもなくダンス会場だがそこには何かに守られるように光の壁がそびえ立っていた。
「多分、踊りで出来たのでしょうね。
ほら、カイリが前に言ってたじゃない『戦争レベルならまだ役立つかも知れないけど、即効性がないから役立たない』って」
「まさか時間が経って十分に効果が潤って出来た、バリアだって言いてえのか?」
気分任せにもう一度、炎をぶつけるカイリ、当然跳ね返ってくるのだが、今度は打ち返す。
「ほら、ごらんなさい。
おじいちゃん達の踊りが激しくなったでしょう?」
魔王の打ち出す炎を、跳ね返すのだからよほどの事のなのだろう。
年を取った魔法使いのブレイクダンスが激しくなっていた。
「ふ、ふざけやがって…」
もう一度、炎を打ち出そうとするのだが…。
「なんだよ、セリカ?」
「無駄よ、カイリ」
「ただがじじいに、負けてられっかよ?」
「無駄だって言ってるのよ。貴女の部下を見なさい」
「サコン、なんだブラドも踊ってるじゃねえか?」
「頭の痛くなるような話になるけど、あれ、貴女が前に踊った踊りに似てない?」
「まさか『回復の舞い』か?」
「それだけじゃないわよ『加速の舞い』で動作が速くなった上で踊ってるのだから、回復効果は二倍よ」
「間違いなく、明日は筋肉痛間違いなさそうで、おじいちゃんにいたっては、生死に関わりそうですね。
どうするのですか、結局、収集付かないじゃないですか?」
「手は用意してあるわよ」
そう言って、セリカは手を叩いて…。
「踊りには踊りよ」
ダロタに踊りを命じた。
ズンドコ、ズンドコ…。
……。
「ダロタ、貴方いつか世界を制するわよ…」
踊りに集中していた集団ですら、笑いの集団に変え、そこに漬け込むようにセリカの魔力が炸裂する。
そんな環境の中、笑い転げるカイリを見てダロタは言った。
「そのたびにオラの、何かが失われていくような気がするだ…」
意気消沈するオークに魔王は言う。
「いい心がけね」
勝利者などいない、得するものなどいないと思われた今回の戦い…。
しかし…。
「おお、シュロおかえり」
数日後、ベテランの冒険者と出会うと、その冒険者は不機嫌そうにしていた。
「どうしたのですか?」
「いやな、さっき探索に出たんだけどさ。変な踊りを踊るオークたちに出会ってな。
笑い転げて、やられてしまったんだ」
オーク達は新たな特技を覚えていた。