第二十話 紅のダロタ その1
「なんだ、あのズンドコダンス?」
最初に気付いたブラドの言うようにそれはズンドコだった。
ズンズンドコドコ、ズンドコド…♪
そんなリズムが聞こえてきそうな奇妙な踊りを鏡の前で踊るオークに、ブラドは聞いてみた。
「ダロタよ。お前は何をやっているのだ?」
『ブヒッ』と鼻息一つしてブラドに本を見せた。
「ブタでも踊れる不思議な踊り…かっこ入門編。
何だ、ダロタ、こんなのを覚えたいのか?」
『んだ』と頷きながら、ダロタは練習を再開するのだが…。
「ダ、ダロタ、しかしな、それは不思議な踊りじゃないぞ?」
慌てるように静止に入るが、人間の自分から見てもそうだと思えた。
それは魔界で店を開いているからであるが、人形のようなモンスターが時折見せてくれたからだ。
そこでダロタも考えたのだろう。
冒険者の前に立ちはだかった時、この踊りを踊る事で魔力を奪う事で攻撃の幅を広げる事を。
このダロタ、意外に勤勉なので、これまた人間ながらに一時的に関心はしたのだが…。
やっぱりブラドの言うように、ズンドコダンスであった。
「じゃあ、ブラドがやってみてほしいべ」
怪訝そうにダロタは意外と難しいからやってみろ、という意味だろう。
ダロタは本を見せながら、ぶにぶにと指を指していたトコロをやれと言っていた。
「参ったな、踊りなんかやった事ないからな…」
さすがにブラドは困った表情を見せたが、その本を見ながら腕をくねらせ、しばらくしたのち。
「じゃあ、行くぞ?」
そんな感じで、全身をクネクネと動かし始めた。
さすがに従来通り、不思議の踊りのように何かが奪われる感覚はなかった。
しかし『何の踊りの真似をしているのか?』と聞かれると『この人は不思議な踊りの真似をやってます』と答えられるほどの出来だった。
「こうだべか?」
そう言って『クネクネ』と踊りだそうとしているのだろう…。
「見事なズンドコですね」
「酷いべよ、じゃあ、今度はシュロがやってみるがいいべ?」
さすがに嫌な顔をしたダロタは今度は自分を指名した。
当然、先ほどのブラドのような踊りを見せると、今度はブラドも頷いた。
「それで正解だよな?」
頷きあう、人間とヴァンパイア、そして、ブヒッと鼻息を吹いて負けずにダロタも踊りだすのだが…。
「やべえ、シュロ、だんだんクセになってきた」
真面目に踊っているダロタに悪いが、それはもう面白い踊りになっていた。
それはもう、後からやってきた魔王二人も笑うほどに…。
「シュロ、ダロタに何を覚えさせているのよ?」
「豚が、豚が舞っている!!」
カイリはまだ収まらないのか、笑い転げていた。