第十九話 魔王の噂になる魔王 その3
そうして落ち着いたカイリがおやつのスナックを口に放り込んだので、思い出すように聞いてみた。
「そういえば、物語や本などで出てくる魔王って、どうしてその即死魔法を勇者相手に唱えないのでしょうかね?」
「そりゃあ、話を面白くするため…と言いたいけどよ。
これには少しワケがあってな…。
シュロ、どうして魔王は地上を自分の物にしようとやって来ると思う?」
「それは…」
『魔界を支配するだけでは、物足りなくなった』とよく聞いたりした物語の定説を言おうと思ったのだが、改めて二人を見た。
二人は魔王なのだ。
「あれ、どうしてでしょうね?」
そして『魔界は群雄割拠している』と昔、ブラドからも話を聞いたことがあったせいか、途中で戸惑いながら自分の言ったその台詞に笑いながら答えた。
「結局、魔王と言っても、強いヤツじゃねえとやってけねえからな。
だから、弱いヤツが『まずは地上から攻めよう』って考えるのさ」
「確実に勇者が聞いたら泣くような事を言わないでください。
でも、それじゃあ、即死魔法を使わない理由にはならないでしょう?」
「確かにそうだが本題はそこからなんだ。
当然、その魔王は自分より弱いヤツを相手にするワケだ。
すると段々、相手に対してなめて掛かるようになるのさ。
お前から借りた本を例を挙げればだ、魔王は勇者に炎を浴びせてただろう?
普通なら、あんな手間の掛かるような事をしねえよ」
「それはカイリさんが言ったように、作者が話を面白くするためなので、所詮、『お話』だからじゃないのですか?」
「いや、今でこそ神話やら、物語にはなってはいるけど、あれはホントにあった話だぜ」
『そうなんですか!?』
自分の驚く様がよほど二人の魔王にとって面白いのか、二人とも笑いを堪えてカイリは言った。
「こちらとしては、どう解釈されているのか、知りたかっただけなんだがな。
実質、これはいい証拠だと思うぜ。
灼熱の炎で痛ぶって、最後には仲間の助けが入って逆転されてるってトコロも、この魔王が根性のねえ証拠だよ」
「じゃあ、『本場』はどうなんですか?」
「まず開始1コンマで、即死魔法をばら撒く」
「あら、容赦ないのね?」
「うるせえな、これはこの前、お前がモンスターの大群に囲まれたときにやった事だぜ?」
『ってか、誰でもやる事じゃねえか、オレんトコの隣の魔王だってやってたぞ?』と、さすが魔王規格、殺傷する数字も天文学的となっていた。
だが、それだけ魔界は広いのだろうと思っていると、カイリは何か思い出した。
「そういえば即死魔法と言えば、セリカの『強者の波動』だな」
「何ですかそれ?」
「魔法で強くなった敵をいてつくような波動で打ち消すっていう、オレ達がよくやるワザなんだけどさ。
セリカの場合は、魔法が掛かってないと無条件で…」
手で、首を『くっ』とやるので意味はわかった。
「勝手にあなた達が名付けただけじゃない。
私は装備品で強くなったと勘違いしているのが、嫌いなだけよ」
「へっ、うっとおしがるなよ。
それを魔王に名付けられているから、お前は十分強い証拠なんじゃねえか」
「うるさいわね。確実性がないから私はあんまり嬉しくないだけよ」
「アレを耐えるヤツがいるのか、どんなヤツだ!?」
「…ブラドよ、かろうじて生きていたりするのよ…」
「あ、相変わらず、不死身ですね」