第十九話 魔王の噂になる魔王 その1
「信じられないわ!!」
冒頭より不機嫌なセリカは、そのままブラドに命令した。
「ブラド、今から即死魔法を唱えられるモンスターを呼んできなさい!!」
ワケがわからぬままブラドは、理由を聞こうとするが、不機嫌な魔王に逆らってはならないのは伝承通りと言っても過言ではないだろう。
一時間もしない内に、三十名以上の魔法に精通してそうなモンスターが店の前にやってきた。
「お呼びでしょうか、セリカ様?」
「堅苦しい挨拶はいいわ」
そう言って、セリカは自分の本題を言った。
「私に即死魔法を唱えてちょうだい」
集まったモンスターが困惑しながら全員自分を見たが当然、自分もワケがわからないので首を振っていると。
ドンッ!!
「早くしなさい」
冷静に地面をめり込むくらいに踏みつけるので、さっさと一列に並んでセリカに魔法を唱えていくのであったのだが、ここで気になる事がある。
「ですが、セリカさんには効かないのでは?」
状況を見守るしかない自分達は、もう何人目になるだろうか頭の良さそうなモンスターの即死魔法を吸収する魔王の姿をみてブラドは答える。
「おいおいラスボスにそんなのが効いたら、RPGとして成立しないだろう?」
「えっ、なんですか?」
一応の用心として耳栓をしていたので、詳しく聞こえなかったがブラドの指摘通り、自分達がダロタの大きな鼻に余った栓を詰めて、どこまで飛ばせるか試しているとセリカは気が済んだのか。
「もういいわ、帰りなさい」
そう言う頃には、自分にもセリカが何をしたいのか何となくわかった感じがしたので聞いてみた。
「死にたいのですか?」
「違うわよ。
誤解を受けるじゃない、ちょっと試して見ただけよ。
ねえ、シュロ、一つ聞きたいのだけど、いい?」
「私は死にたくありませんよ?」
「だから、違うわよ。
さっきの魔法って、私に、いや、魔王に効いていると思う?」
当然、セリカは生きているのでこう答えた。
「まあ、効いてませんよ」
「そうよね、そうよね!?」
先に言っておこう。
「まさか、それで死んだ魔王がいたのですか?」
この質問は先ほどの返答でテンションの上がったセリカに対し冗談混じりで言った事だ。
「……」
じっとりと睨みつけなさる魔王がそこにいた。
「言っておくけど、カイリが相手をしたのよ…」
誰が相手をしようと関係のない話だろうが、セリカにとって重要なのかもしれないので黙って聞く所。
カイリの城にいつものように冷やかしに行った時、その魔王も攻めて来た…というより、喧嘩を売ってきたのである。
この表現を使う理由には、三つある。
まずカイリは自ら攻めて戦争を起こすような魔王ではないので、それほど恨まれる魔王ではないという事。もう一つは、自分より弱いヤツは基本的に相手をしない魔王であり、強い魔王から認められているという事だ。
今回は後者が重要な理由が大きく占めていたのだが、この身の程を知らぬ魔王は『挑発』を仕掛けた。
これが最後の理由である。
こうなるとカイリは止められない。
「てめえこそ、ウロコがあるくせに『翼』じゃなくて『羽』飛んでんじゃねえ、龍なのかムシなのかどっちなのかはっきりしろよ?」
その際である。
カイリは『みっともねえんだよ』と、効くはずのない即死魔法を唱え、その魔王に放り投げたのである。
「そ、それで、まさか?」
「ようやく事の重大さがわかったようね。
私も驚いたわよ…」