第七話 その1
ようやく、話の方向性が出来てきたので、書き始めたいと思います。
「おっ、来たか?」
あれから、数日が過ぎた。
「あっ、ブラド。店番、いつもありがとうございます。」
…というより、週に一回の探索の決まりがあるため、実質二回しか来ていない。
「店長、お待ちしてましただ。」
そして、アルバイトで雇ったこのオーク、名前は『ダロタ』というらしい。
最初ブラドは、このオークの採用を渋っていたが、実際、自分達には分からない言語を理解したり、呪われたアイテムを解析出来るという、この二つの能力があったのだ。
今やダロタは、店の経営に無くてはならない人材に変わりないだろう。
店の方は週一でしか開店出来ないが、繁盛しているのは良い事だった。
…だが。
「ここかい、最近繁盛している。ワナ作りの店って?」
…それは突然やってきた。
「あっ、いらっしゃ…っい!?」
まずブラドが硬直した。
「ブラド、どうしただ?」
そう言ってダロタがカウンターを覗く…すると、カタカタ震えだした。
「あの…どちら様…?」
このパターンは何となく『何か』に似ていた。
だが、一応、ブラドに聞いてみようとすると、その話し声が聞こえてしまったのか、その相手の方から話し始めていた。
「ああ、オレか、カイリって言うんだ。
隣の国の魔王さ。」
短く纏めた栗色の髪に、赤いレザーアーマーに身を包んでいる細身の外見。
だがそんな軽さを感じさせる言動とは裏腹に、カイリの自身の魔力でほんのりと赤く、そして、空気を歪めていた。
…まるでセリカと雰囲気が似ていたので、おそらくカイリの言っている事は本当なのだろうと直感できた。
「……。」
「なんだ、驚いて声も出ないのか?」
「いえ、驚くも何も、一度魔王って人物見てるから、何ていうか新鮮味が薄れてしまいまして。
隣の国の魔王ですか…。それで、ここには何の御用で?」
「ははっ、新鮮味か、面白い事をいうヤツだな。気に入ったよ。
いや何さ、最近セリカがワナを作る店をようやく始めたと思ったら、何とその店が大繁盛って話じゃないか?」
「そんな繁盛って、今は開店して間もないからですよ。
カイリさんのトコロだって、そうだったはずだと思うのですけど?」
「だけど、聞くトコロによると、週一回のペースでの開店なんだろう。
それでこの賑わいは、普通のワナ作りの店じゃありえないんだ。
だから、こうやって…」
「視察に来たワケですか…まあ…ん??」
その時、ブラドとダロタがちょんちょんと背中を突き刺して来たので、自分を裏手に手招きをした。
「おい、シュロ、どうして隣の国の魔王がここに来るのだ?」
「そんなのこちらが聞きたいよ。もしかして…やばいのかな?」
「やばい…やばいな。」
「んだ、やばいな。」
「最悪のケース…何が起こるの?」
「まあ、この大陸の地図が書き換えられるな。」
「えっ、どういう事ですか?」
「ブラドの言うとおり事が起きるだよ。
数ヶ月前、カイリと『ある人物』が戦って、この町の2つくらいの面積の島が消し飛んだという事件があっただ。」
店内の様子を物色に近い様子で勝手に見学を始め出すカイリをみて、少し緊張しながらブラドに尋ねてみた。
「もしかして…戦争?」
「いや、正確には…。」
ブラドもバツの悪そうな顔をするので、更に緊張してしまう。
「『喧嘩』だ。」
ガタッ
「ええと、勇者が来たとか…?」
「そうだと、多少面目がつくのだが…な。」
「仮にもアレ、魔王…ですよね?
魔王に喧嘩を売るってどんな…ああ。」
いた。
思い当たり過ぎて目眩が起きた。
「『セリカ・カイリ事件』と隣の国とこの国に住んでいるモンスターは、こう呼んでるだ。」
「まあ、理由は、しょうも無い事らしい。
だが、この町を吹き飛ばすくらいの爆弾がここに存在。いや、来たのは間違いないだろう。
こういう時、どういう対応をすればいいか解るな。シュロ?」
「迅速に『視察』、完了。
丁重に『帰って』、今日は飲み明かそう…ですね。」
「解ってるじゃないか?」
「当然ですよ。自分には帰る場所があるのですから。」
「…店長、ガンバルだ。」
覚悟を決めて、いざ、現場へ…。
「どうして、アナタがここにいるのよ?」
「何故って、ただ視察に来ただけで、別に良いじゃないか。」
現場には、爆弾が増えてました…。
そして『なあ、シュロ』とカイリは朗らかに笑いながら自分に同意を求めた。
それをみたセリカ、当然イラつきなさる。
爆発まで…あと15秒。
不穏なナレーションまで聞こえて来た。
ゴゴゴゴゴ……。
窓の景色をチラリと見ると、大気の歪みを受けた影響か小石が浮かんでいた。
「ま、待ってくださいよっ。
カイリさんは、視察にやって来ただけでなんですよ。」
「あら、随分カイリの肩を持つじゃない。
いいわ、カイリを片付けてから話を聞いて上げるから、少し待ってなさい。」
明らかに言動がおかしい魔王、それに対してもう一人の魔王はというと…。
「面白い事を言うじゃないか、この前のケリをつけようってのか?」
笑いながら更に自身の魔力を高めたのであろう。
二人の魔力が家屋全体を揺らしていた。
もう止められないのだろうか、命の危険というモノを身近に考えてしまう。
助けを求めるように、ブラドたちがいる場所へと視線を移す。
見るとブラドはダロタを抱えていた。
「あっ。」
そして、窓から飛び去った。
こんな状況に当然参ったのは、他ならぬ人間、言ってみれば自分だ。
「いい加減にしてくださいっ!!」
相手が魔王というのも忘れて睨みつけて言った。
「なっ、何よ。」
「ただの視察に来ただけでしょう。済ませて帰ってもらえば良いじゃないですかっ!!」
「ははっ、人間に怒られてやんの?」
「カイリさんもですっ!!」