第十八話 意外な事を忘れていた魔王とシュロ その4
「で、どうして貧乏神さんがここに?」
「ブラドさん、って、貧乏の世界では有名ですから、一応拝みにやってきたのですよ。
いや~、それがこちらの貧乏神の世界も不景気でしてね」
「『貧乏神の不景気』という事は、今は景気がいいという事なのですか?」
「いやいや、何というか…。
何も『お金がない』というのが、私達の『景気』に関わる事ではありませんので…」
じゃあ、どういう事か聞きづらかったが、カイリは答えた。
「ま、まあ、貧乏神に拝まれるってんだから、よほどの金運なんだろうな。
だけどよ、ビンボ。
人ん家に勝手に上がり込んじゃいけねえだろ?」
勝手に名づけられ『出てけ、出てけ』と言われたが、相手が魔王のためか大して気にもせず、貧乏神はお札の束を差し出した。
「何だ、コレ?」
「これに名前を書いて、炎や火に投げ込んでください。
それで燃えてなくなるのは、不吉な名前でして、逆に残れば運気を呼び込む名前であるというお札でして…」
「いいの、貧乏神がそんなの渡しても?」
「いえいえ、不景気ですからね。
仲間内でも地上の『政治家』という人間にとりついているそうなんですが、おかしい事にどうも景気がよくならなくて…」
「無駄にお金を使いすぎで、余計、不景気になるのでは?
政治家のお金のムダ使いは不景気の一因ですよ?」
「あっ」
「『あっ』じゃないですよ…、今さら気付いたのですか?」
「なるほど、いい勉強させていただきました。
やはり誠実に一般のかたに憑りついて頑張るほうが良さそうですね」
もしかして、自分はとんでもない事を言ってしまったのだろうか?
「これで地上には、不幸な人が増えるわね…」
「ああ、間違いねえな…」
魔王の冷やかしが、冷やかしに聞こえなかった。
「やはりこのお札を差し上げて正解のようですね…」
「おっ、帰るのか?」
「ええ、今日はブラドさんを拝めただけでもいいとします…」
そう言うとさっさと帰っていった。
「お札ね、どうするシュロ、使ってみるか?」
カイリが聞く中、セリカは早速お札に『ブラド』と名前を書き、火をつけた。
すると、勢い良く燃え上がったので、何か理解したように言う。
「どうも呪殺をするお札じゃないようね」
相変わらず、失礼な事をしていたセリカではあったが、とりあえずみんなで使ってみる事にしてみた。