第十八話 意外な事を忘れていた魔王とシュロ その3
「でもよ、確かにいつまでも『あれ、これ』で呼ばれるのは、よくないわな。今日決めちまったらどうだよ?」
「名前ですか…」
「そうね、この際シュロに決めてもらいましょう」
「そうは言いますけど…結構難しいですね」
「確かにあまり気負いすんなって言っても、厳しいわな」
「カイリさん、何か良い方法はありませんかね?」
「じゃあ、基本的な方法でやってみるか、特産物やモンスターの住処を見てさ。
ヤシの実とれるからヤシの村とか、ドラゴンが住むから龍の住処とかさ」
「じゃあ、ここの特産物って何ですか?」
「ここは確か…オークギターだな」
そういえば、ダロタがウクレレを片手に意気揚々と下手くそに引きまくっていた事があった。
今にしてみれば雑音ではあったが、そんな理由があったのかと思いながら、名前を考えてみた。
「オークギター、オーク、ギター、ギター…」
「シュロ、少なくとも、ここは楽器屋じゃないでしょう?」
「じゃあ、特産…モンスターは?」
「特産モンスターって何よ?
ええと、ああ…」
「確か…ああ…貧乏神だったな?」
「どうも、貧乏神です」
いつの間にやら、貧乏神なのだろう、それは自分たちの中心に現れた。
「貧乏神って言っても、人間達が勝手に神様って呼んでるだけだから、そう呼ばれているだけですので気にしないでください。
てへっ」
可愛くねえ…。
「ちょっと、連れてこないでよ…」
「勝手に入り込んできたんだよ、でもセリカよ…。
そんなに怖がらなくてもいいんじゃねえのか?」
「私のどこが怖がっているっていうのよ?」
しかし、セリカは両手を広げて明らかに消し飛ばそうとしているのだから、カイリの見解はどう見ても正しかった。
「あのセリカさん、この名のない店を吹き飛ばす気ですか?」
「シュロ、私はこれに大変な目にあっているのよ…。
ただ席を割り込みしただけなのに、ブラドが取付かれて…」
「どうして、ブラドさんが?」
「それは私が盾にしたからよ」
どうやらこの魔王の装備項目『盾』には『ブラド』と記されているようだ。
だが聞くところによると、それが原因でセリカの国は一時期、大貧困に襲われたらしく。
その呪いから逃れるために、セリカはブラドを放浪の旅に行けと命じたらしい…。
「セリカさん、原因作っておいて、ひどくないですか?」
「あら、私は魔王よ?」
「関係ありませんよ。
ですけど、今までブラドさんって、人間の自分が見ても金運が悪いじゃないですか?
という事は、まだ…」
「ああ、ご心配なく、元々彼は、金運が無かったのですよ」
貧乏神にして、ひどい言われようである。