第十八話 意外な事を忘れていた魔王とシュロ その2
「ペンネーム、隣国のゴーレムさんからいただきました。
いつもカイリ様がお世話になっております、カイリ様があなた方の店へ足を運ぶという事が私たちの国の平穏の時間となって、感謝ばかりしております。
さて、今回、私達の城に宅配に来た際にも気になった事がありましたので、お便りさせていただきました。
…ありがとうございます。
ええと、人間が魔界で商売をやっているという事は、毎回、話のネタになるのですが、そこで一つ気になったのです。
シュロという人間が店長を勤めているというのはわかります。
そして、ヴァンパイアとオークが仲良く働いているというのも知っています、ですが、店の名前は何というのか、未だにわからないので、この際、教えてください。
という事ですが…あれ、決まってなかったか?」
そういって、ブラドは収録中にも関わらず外へのドアを開けようとした。
その時である。
「あら、ブラド、私の許可なく、何また勝手をしてるの?」
「セ、セリカ様…!?」
「お前よ、前回、俺ら登場がなかったからって、少し、自由にやりすぎじゃねえのか?」
二人の魔王の鋭い一撃が決まり…。
「…突然ですがって、まあ、この放送をお聞きしていた人は何が起きたか想像ついた事でしょうが、お時間とさせていただきます。
…はい、それでは、また次の機会にお会いいたしましょう」
「やりきりやがった…」
「み、見上げた根性ね…」
ミイラ男と化したヴァンパイアは、自らの使命をまっとうして力尽きた。
「でもよ、さっきの事じゃねえけどよ。決まってなかったのか?」
『えっほ、えっほ』と機材を片付けるダロタを見ていると、カイリは中に戻って来て確認していたのだろう。
先ほどブラドの席に行儀悪く座り、ひっくり返ってなかった『商い中』看板をデコピンの空振りで返して聞いてきた。
「後回しにしていたという訳ではないのですが…」
「あら、今までそれでよく商売が成り立っていたわね」
つい、その魔王を見た。
確かに、お店という建物は名前が無いという事はどんな店なのかわからないため、商いという行為に致命的である。
しかし、よく思い出してほしい。
この魔王とあの魔王に、何回、家屋が吹きとばされた事か…。
週一での商売ではあるが、よくもって3回目で解体する家屋なのだ。
いままで何回、引越しをした事だろう…。
だが、それが思わぬ効果も生み出していた。
どうも生き物というものは、引っ越して来るのが気になるらしい。
『ここでどんな商売を、するのかね?』という質問があるならば、日常的な接客で引越しをやっているモンスターは自分達との何の関係はないが答えなければならないだろう。
『ああ、ワナを作って売る店だ、ほら、あの噂の人間のやってる…』などと…。
旅芸人は舞台設計も宣伝だという。まさにその心境である。
おかげで、名前を決めるのは後回しになってしまったのは言うまでも無い。