第十六話 ぐーたら義兄と暗黒義妹 完結編
「ん?」
すると同時だからだろうか、カイリが顔をしかめたのは雨が振ってきたからだった。
そして、家に戻ると今度はダロタが上を見上げていた。
「ああ、雨漏りしてますね」
「おい、そんなモン持って何するんだ?」
「ただの修理ですよ」
梯子を使って屋根裏に昇ると、カイリもついて来た。
「何か?」
「嫌さ、見てるだけだよ」
何が物珍しいのか、無防備な態勢でカイリがこちらをずっと見ていたので、目のやり場が自然と作業の方に集中したが途中で手が止まった。
「ダロタ、少し無理っぽいから、ブラドを呼んで来て」
下の階にて『あんぐり』と口を開けていたダロタにそう言うと、しばらくして倒れていたはずのブラドがやってきた。
「ああ、こりゃ、ワラを詰めるだけじゃ駄目だな」
さっきまでとんでもない高さから落ちたというのに、さらに踏み潰されていたというのに平然としているのだから、さすがのタフネスである。
「しかし、セリカの世話だけでなく、シュロのこういった事も手伝わないといけないだから、お前も大変だな?」
「大変ですが、それが私とセリカ様の従兄妹としてのあり方だろうな。
まあ、毎度打ち上げられたり、吹き飛ばされたりもしてますが、セリカ様とて、これでストレスの解消にでもなれば幸いだろう?」
意外と大人な意見にカイリと『おぉ』と声を揃えていたが…。
いや、違う、あれは汗かそれとも…?
「思わなければならんだろう!?
セリカ様に事あるごとにわがままに答えたときもあるぞ、更に口答えでもしたら、こんな塩梅だ!?」
両手を広げて何を表していたか、その『塩梅』に目を移していたが、ブラドは嘆くように答えた。
「一応、魔王に仕えているがな、私だって出世したいとか思っているのだ。
やがて、いつかはとかな…どうした、シュロ?」
「…やっぱりブラドさんはこうでなくてはいけませんよね」
「はは、照れるじゃないか」
「そうだな、見直したぜ、別の国の魔王として応援してやるよ」
しかしカイリは少し後ろを見ていた。
それが気になったのかブラドは何かを言おうとしたが、肩を掴んで、にっこり笑いなさるのは我等が魔王…。
「ブラド、こっちへいらっしゃい…」
「あはは、お断りします」
「来なさい…」
しばらくして『あれ~』とブラドの声が聞こえたが、気にすることなくカイリは答えた。
「でも、いい加減にしておけよ。一応、血族なんだから」
「あら、私はこれでもブラドはしっかりと評価はしているつもりよ」
「いままで、見てましたけどいい飛び道具にしてるじゃないですか?」
「あら、失礼ね。
じゃあ、ブラドのどの辺が評価できるか言えばいいの?」
雨避け代わりに自分の周りに展開していた、魔力の幕をさらに広げ、雨漏りを防ぐとセリカは考えることなく答えた。
「ブラドって、不思議と顔が広いのよ。
この前、ほかの国の魔王がやってきたんだけど、普通に挨拶してたくらいね。
シュロだって、初対面のモンスターが挨拶してた所見たことがあるでしょう?」
そう言われてみれば、思い当たる節があったので、ちゃんと見ているのだなと関心しようと思った、そのときである。
カイリが袖を引っ張って耳打ちをした。
「ブラドはセリカに、毎度、毎度、知らない奴がいないくらい吹っ飛ばされているだけだよ。
それこそ恒例行事並みにな」
当然、セリカは『何?』と聞いてきたが、何でもないですと答えながらただ思ったのは、この力関係は一生代わることがないだろうという事であった。