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第十五話 学校行事のセリカ 完結編


 「ど、どうしよう!?」


 「どうするったって、戦うしかないだろう!?」


 最初はゲンタは勇ましく前には出た。


 「ほほう、勇ましい、君が相手かね?」


 『ズシン、ズシン』と歩み寄り、普段、地響きなど味わう事などないゲンタにとっては恐怖の何事でもなく…。


 慌てて集団の中に入っていく、そして…。


 「ど、どうしよう、セリカさん?」


 クライトは怯えきって、意見を求める事はしなかったが、正しい判断だろう。同い年の自分に判断を求めるより、年上のセリカに判断を求めた。


 しかし、それは間違いだとゲンタは気付いていないのだろう。


 「そうね、シュロ君の判断に任せるわ」


 「じゃあ、逃げましょう」


 やっぱり、そうなったので即答である。


 「いいえ、シュロ君、貴方には、まだアレがあるじゃない」


 目が笑っていた…。


 だがゲンタにとっては、それで光明を得たのだろう。


 「おい、シュロ何とか出来るのかよ?」


 クライトもそれにすがる様に自分を見たが、当然あるワケがない。


 それよりかこの二人に押されて、とうとう歩みを止めたレクターの前に出てしまっていた。


 「おお、君が相手かね?」


 心なしかレクターの目が輝いたように思えたのは、レクターの狙いが自分だという事がわかっているからだろうか?


 構う事無くレクターは、臨戦態勢をとった。


 翼を広げ、視界一杯に広がった身体を更に大きくさせ、威嚇して、自分の目の前で雄叫びを上げる姿は、神々しさすら感じた。


 「大丈夫ですよね?」


 そう言ってセリカを見たが、思い浮かべるのはダロタ食べられそうになった光景か、それとも家が新しく生えた尻尾に壁が吹き飛んだ光景か、そんな現実を経過したレッドドラゴンは…。


 「あっ、逃げた…」


 クライトがそれを呟くくらい、思い切りよく、左側に次のフロアに行く通路があったので、そこへ逃げた。


 …のだが。


 それは地獄であるという。


 追う者、追われる者。


 図式として、逃亡者というモノは恐怖を感じるモノである。


 そう後方には、地響きが追って来ている。


 おかげで振り返る事が出来なかったが、走るシュロには勝機はまだあった。


 距離にして5、4、3、2、1m…。


 『ドカッ』という一際大きな振動と共に細い通路で、いつぞやのように首だけを出した状態になったが、どうもレクターは抜けなくなったらしく足掻いていた。


 「やるではないか…」


 おかげで、その呟きを幾分か余裕を持って聞くことが出来たが、その余裕はおっかなく消えた。


 「ふむ、外したか、やはり首が曲がらんと調節が難しいな」


 火の玉を吐いて軽々と壁が溶解したからだ。フロア内に煙が充満する中『ある一定の方向』に煙が流れて行くので、嫌な予感がして次のフロアへの通路に走り込む。


 熱かった…とても熱かった…。


 後ろから迫る、炎の壁、辛うじて逃げられたのは奇跡だった。


 「あら、シュロ…ご苦労ね」


 気がついたらクスクスと笑っていた。どうやら、この階層を一周してきたらしい。


 「あれ…みんなは…?」


 「もう先に帰らせたわ。シュロもさっさと帰ればよかったのに」


 「だったら、どうしてあんな事を言ったのですか?」


 「ふふ、それは面白そうだったからよ」


 しかし、うんざり出来なかった。何故ならレクターが狙いを定めていたのが見えたからだ。


 セリカは気付いていない、しかし、身体が勝手に動いた。


 セリカを庇い、視界いっぱいに広がる炎…。


 そして…。


 「あっ、気が付いた?」


 辺りを見渡して、ようやく近くの宿屋のベットの上だと気付くが、今までの経緯がまったくわかってなかった。


 「えっと…?」


 「ブレスをまともに浴びて、貴方だけ気絶した状態でダンジョンの入り口に転送されたの。赤龍王もやりすぎたって、謝ってたわよ?」


 「赤龍王?」


 「あのレッドドラゴンの事、魔王をも圧倒する攻撃力を誇っているから、そんなあだ名がついているのよ、知らなかったの?」


 「知るわけないですよ」


 「でも、馬鹿ね。いちおう戯れで放つ程度のブレスなんかどうって事ないのに。


 ほっといて逃げればこんな事にならなかったと思うわ。おかげでゲンタ達も心配してたわよ?」


 「そういう訳にはいきませんよ」


 「ふふ、そうね、それが貴方のいい所ですもの…」


 微笑を浮かべるセリカに『少し』ムッとしていると、セリカも『少し』考えた様子で聞いてきた。


 「仕方ないじゃないですか、危ないとわかってれば誰でもそうするでしょう?」


 真剣に言ったつもりだが、セリカにとってはそれがおかしかったのだろう。


 とうとう笑い出して、謝りながら答えた。


 「ごめんなさい、そうね、誰でもよね」


 何がおかしかったのかわからないが、起き上がろうとすると人差し指で額を押さえられて起き上がることができなかった。


 「駄目よ、怪我人は寝てないと。


 私だって、貴方の容態を知って、取り乱したお母様の相手をしていて、下手な魔王を相手するより、大変だったわよ」


 そういうセリカが珍しく疲れた様子を見せたのが、とてもおかしかったので、自分は珍しくこういった。


 「そうですね、じゃあ、言うとおりにします」


 当然、次の朝…。


 「シュロが、女と一緒に一夜を宿屋で明かした」


 そんな噂が村中に広まってしまったのは、言うまでもない。

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