第十五話 学校行事のセリカ その6
「うおお、負けるか!!」
「ぼ、僕だって!!」
その後、ゲンタとクライトのおかげで8階と9階とあっという間に踏破する事になったのだが、シュロは最初からこの勝負に乗り気ではなかったので、一応の注意をした。
「二人とも、そんなに無茶しないでくださいよ」
「無茶じゃねえよ、もしかして、シュロびびってんな?」
そんなワケではないが、実際モンスターも強くなっているので、またゲンタが無茶をするのではないかと思ったのだが…。
「まるで保護者ね」
と、また自分の前に立ちふさがったモンスターを一睨みして追い返して微笑むセリカが冷やかすとおり、心境はまさにその通りだった。
「でも、いいじゃないの」
「どうしてですか?」
「さっき聞いたんだけど、この先を行けば10階に行く階段があるそうなのよ。
さらにそのついでに、自分の仲間や顔を見るなりに驚いて逃げるから、10階まで来たあなた達の同級生はいないといってたわよ?」
さっき出会ったモンスター、ゾンビを見て、不快にならない人間はいないだろう。
しかし、誰も行った事がないという事に少し顔をしかめているとセリカは答えた。
「守ってあげるくらいの事はしてあげるって、さっきも言ったじゃない。
何を心配そうな顔をしているのよ?」
「それだと少し困ってしまして…」
「あら、どうして?」
少し考え込んでこれはセリカにも言っておいた方が良いと判断したので言おうとするとゲンタが割り込んできた。
「おい、何また抜け駆けしようとしてんだよ?」
小声でセリカに話そうとした姿勢は、どうやら誤解を招くような姿勢だったらしい。
「ち、違いますよ!?」
おかげで慌てて離れてしまい、ゲンタは一通り怪しんだ後、明るく答えた。
「まあいいや、それより、10階に行く階段を見つけましたよ」
「あら、さすがね、ほら、シュロ君も頑張らないと負けちゃうわよ?」
どうやら勝負の基準がわからない戦いに巻き込まれてしまったようだが、階段を上る際に白々しくセリカに聞いてみた。
「ところで、セリカさん…」
急に前の二人が睨みつけてきたので、少し戸惑いながら聞いてみた。
「このダンジョンって、10階おきに強いモンスターが陣取ってるって、ホントですか?」
「何だ、ホントにシュロは意気地なしなんだな。大丈夫だって、今まで大した事ないんだから、強いっていってもどうせ図鑑でよく見る程度のモンスターだろ?」
『そうですよ』とクライトも、余裕が出て来たのか、笑顔がだったが意外に対照的だったのは、セリカだった。
そんな表情にも構わず『大丈夫ですよ』と笑顔で、その10階を駆け出した二人を見送りながら、セリカは思い出したように言った。
「そういえば、10階にいるのって…不味いわね…」
「不味いって…何が?」
「ねえ、シュロ、ここのダンジョンって、踏破防止のために定期的にモンスターを入れ替えているのを知ってる?」
「はい、それがこのダンジョンで冒険者たちの売りだと聞いてますが?」
「それで、10階おきには強いモンスターが、陣取ってるって事になっているのよ。
一応、ダンジョンにいるモンスター達には、今回、あなた達の事を言っておいたんだけど…」
ホントに困った事になっているのが、一旦、躊躇して自分を見たのでわかった。
「その中で、張り切った人がいたのよ…」
「…もしかして、ブラドさんですか?」
首を振ったので、違うのだろう。一応、礼儀にもここでダロタも名前を挙げるが、首を振るので、しばらく考えたのち、どうしても頭に浮かぶのはセリカの厄介な相手だった。
「カイリさんですか?」
「魔王は、こんな所で油なんか売ってるワケないでしょう?」
自分を棚に上げておいて何を言うか、この魔王。
しかし『解答』は、二人が帰ってくる事でわかった。
「図鑑じゃない、図鑑じゃない、神話、神話が…」
「れれれれれ……」
クライトは何を言いたいのか『それ』が答えを導き出した。
「なかなか、騒がしいと思ったら、これは随分と小さい冒険者達だな…」
現れたのはレッドドラゴンのレクターだった。
トンでもない人が張り切っていた。