第十五話 学校行事のセリカ その5
『篭絡』という言葉をご存知だろうか?
辞書によると、人を巧みに手懐けて、自分の思い通りに操る事を指すが…。
「セリカさん、きれいな指輪を拾いました」
そう言って、セリカに捧げているゲンタは他から見ると意味は違うが…。
「綺麗な指輪ね、次は何かしら?」
『次』と言ったセリカの要望に答えるようにそれを探しに行ったゲンタのこの状態を篭絡といえるのだろう。
そして、現在7階…。
いつの間にやらクライトも…。
「セリカさん、さっき痺れ針のワナがあったから、僕が潰しておきました」
微笑むセリカは、また『次』を期待されゲンタと同じように『篭絡』していた。
そんな自分は何をしてたのかというと、その潰されたワナをまじまじとつついていると、だんだんとわかって来る『感覚』に呟いてしまう。
「これ、作るのに大変だったのに…」
ちなみにこれを作るのに掛かる時間は約二時間、大量生産しているのにも関わらず自分の作っているものだと理解してしまうのは、製作者ゆえなのだろう。
だが、クライトは悪気がない。
それだけ、今も自分の作品が壊されていくのだと思うと心は自然に沈んで行くのは言うまでもなかった。
「でも、ダンジョン探索でワナが壊れたり壊されたりするのは、仕方ない事でしょう。
貴方だって、それで商いが成り立っているのだから、割り切った方が利口よ?」
するとクスクスと笑いながらセリカは指輪を見せて聞いてきた。
「ところでシュロ、さっきゲンタにコレが何の指輪なのか聞かれたのだけど、さっきからはめて見て確かめているのだけど、魔力も上がらないし、効果が全くわからないのよ」
「ああ、それはただの指輪ですよ」
「そうなの、こんな綺麗な装飾が施されているのに効果がないなんて残念ね。
まあいいわ、ゲンタに聞かれて困っていたのよ。うまく説明しておくわ」
そう言って、セリカはゲンタのいる場所を見ているのか、何も無い壁をじっと見つめて探し当てたのだろう。
そこへ向かおうと歩き出したのを見て叫んだ。
「そこは…!!」
言うのが早いのか、飛び出すように駆け寄って落とし穴に落ちかけたセリカを抱きとめていた。
「シュロ、大丈夫?」
「な、何とか…」
「馬鹿ね。そんなに心配しなくても私は飛べるのよ。落ちた後、開いた穴から上がってくればいいだけでしょう?」
「それはいい考えですけど、多分、その落とし穴、自分の作ったモノなので…」
重くはないがようやく抱きかかえて引っ張り上げると、その落とし穴はモノの見事に消えた。
「すぐに消えるというのも考えものですね…」
「ふふ、そうね…。
でも、辺りのモンスターも強くなってきてるようだから、二人にそろそろ纏まって行動するように言っておかないといけないわね」
そう言って、なぜか笑っているセリカを見ていると自分がどんな状態なのかに気付いた。
「そっ、そろそろ、離れましょうか!?」
密着状態だったので、流石に顔が真っ赤になってしまい、引き離そうとするとセリカはくすくす笑いながら、いつも通り離れてくれなかった。
その時である。
「ゲンタくん、やっぱり彼は裏切り者だよ」
背後からそんな声が聞こえた。
「許せねえヤツだ」
「二人とも、コレにはワケが…」
「抱き合っておいて、どんな言い訳するのかな、ゲンタくん?」
『許せない』といった空気が自然に出来上がる中、ゲンタ達は答えた。
「勝負だ!!」