第十五話 学校行事のセリカ その3
「裏切り者…」
「そうだね、裏切り者だ…」
ダンジョンを探索する最中、二人が敵意を向けるのはモンスターではなくシュロだった。
「シュロ君、僕らの同盟はそんなに安いモノなのかい?」
ゲンタ、クライトは始めて聞く『同盟』という言葉にセリカは微笑みながら答えた。
「あら、同盟なんて、手を結ぶといっても、どちらかの力が強まれば、はかなく破られてしまうのは常識だと思わない?」
そんな魔王らしい一言を二人は理解できるとは思えなかったが…。
「そうですね、セリカさん」
なんだろう、この疎外感。
「さすが、シュロ君のお友達ね。理解できてうれしいわ」
セリカの微笑みに、二人は照れるように笑いあっていたが、自分は探索開始から、波乱を呼ぶのではないのかハラハラしていた。
だがこの『魔王効果』実はこの後、役に立つのである。
「あっ、スライムだ!!」
その時、クライトが思わず叫んだとおり、先制を許してしまうと思われた時、この魔王は…。
「あら?」
スライムの方を向くと、びっくりしたのは、どちらだろうか?
「……」
自分が黙っていたとおり、嫌な沈黙が流れた。
特に、このスライムには『歯向かうとは、いい度胸してるわね』と重圧が襲い掛かって来たのだろう。
逃げ出したスライムをみて、もはや何も言うまい…。
そんな状態で、モンスターたちは自分に話しかけてくる事もなく、三階を探索をしていると、探索未経験者の二人は、慣れてきたのか緊張が解れた証拠に、ゲンタはさすがに今までに気付いて聞いてきた。
「なあさっきからセリカさんって、全然、戦ってないけど、本当に冒険者なのかよ?」
ゲンタの指摘するように、セリカは戦闘に参加していなかったのだ。
「そういえば、魔物は弱いモノから狙うと昔から言われててるけど、僕達は棍棒を最初から武器として持っているのに対して。
何も持ってないセリカさんに全然、向かって来ないね?」
そりゃ、後が怖いからだと思うが、一応、誤魔化すのは言うまでもない。
「それはセリカさんの周りには、敵が寄ってこないように魔法が掛けられているのでは?」
実際、セリカがそんな事をすれば、自分達の身がどうなるのだろうかわからないが、ゲンタは『なるほど』と言って納得した。
「どうりで、腕細いワケだ」
でも、その細腕で大人一人持ち上げたりしますけどね…。
「セリカさんって、どんな魔法を使ってくるのかな。それで怒ったら、魔法でおしおきしてきそうだよね?」
ええ、そうですとも、怒らせたら地図を書き換えが起こるくらいの破壊魔法を扱ってましたよ先々週…。
そんな嬉々とした二人には、そんな事はわからないのだろう。
一人苦しんでいると、その時だった…。
小石につまづいて、ゲンタは地面に顔を擦った。
「痛ってええ!!」
ゲンタ自身、大した事は無さそうだったが、それは自分で自分の顔が見れないからである。
「だ、大丈夫ですか?」
自分からしてみれば、ゲンタは頬から血が流れ、服を赤く染めていったので、自分だけではなくクライトも心配していた。
「帰って手当てした方が…」
「大した事じゃねえって、そんな事で帰るワケにはいかねえだろ?」
そう言うが、擦りむいた赤い血がボトボトと地面に落ちる音がこっちまで聞こえてきそうなくらい血が出ていた。
「見せてみなさい」
「ちょ、ちょっと…」
手で払おうとするが、それはスルリと避けられて、顎を片手で上げてキズを確認するとセリカは何やら唱え出した。
「はい、これで大丈夫よ」
あっけなさを感じるくらいの出来事だったので、思わずゲンタの方はどうやら痛みがなくなったようだった。
「ありがとう、セリカさん。
今度から気を付ける」
「あら、元気が良いのは、男の子らしくていいじゃない。
まあ、今度から気を付けなさい」
するとゲンタは目を輝かせて、元気に答えた。
「はい、セリカさんっ」