第十五話 学校行事のセリカ その2
そして、そのプリントを一通り読んで、セリカは聞いてきた。
「つまりシュロ、貴方は学校行事である社会体験学習に参加するから、他のモンスターが気軽に挨拶して来ないようにしたいの?」
「はい、そうですが」
「だったら、参加しなければいいじゃない?」
「それはごもっともですが、そんな事をしたらきっと母さんが『息子は学校行事にも参加できないなんて』って泣くと思いますので…」
『ふうん』と頷いてセリカは、一度会った事のある自分の母を思い浮かべているのだろうか『お母様らしいわね』と頷いて答えた。
「わかったわ、じゃあ、私に任せて頂戴」
そう答えて、その当日を迎えた。
「シュロ~、危ないと思ったらちゃんと逃げるのよ~」
今にも泣き出しそうな声で見送る母を見て、参加してよかったなと思うのは失礼だが、学校ではなく不思議のダンジョンに集合していると、催し物が始まる最初の儀式。
開催宣言というか、学校長の演説が終わり協賛者である長老の話が始まり出してと担任のジラル先生が、自分の肘を小突いて耳打ちをしてきた。
「シュロ、一応、探索の方は冒険者も同伴させている事になっているが、今日は10階まで頼むぞ…」
「頼むといわれましても…」
「そう不安そうな顔をするな、この学校で探索経験者はお前だけだから、担任として言っているだけだと思って聞いていればいい」
笑いながらポンポンと肩を叩かれるが、自分の不安はそれだけではない。
なぜなら…。
「10階までといいますけど、正直、5階までしか探索した事がないのですよ?」
「はは、冗談はよせ。お前は10階まで探索した事があるとよく飲みに行く酒場の冒険者から聞いていたから。
オレは、職員会議で『ショロは10階まで探索している』と言って、今回探索するのは10階だと決まったのだぞ?」
「ジラル先生、お酒が入った会話は話には尾びれが付くというのは有名な話だと思いませんか…?」
「……」
「先生?」
「…ま、まあ、頑張れ」
ポンポンと叩かれた肩がバシバシと叩かれ出してたので、少し痛かったが…。
「さて、老人の話はここまでにして、どうぞ皆様、この村にある不思議のダンジョンがどの様なモノであるかを身をもって体験してみてください」
長老がこちらを見て二コリと笑うのは気のせいだろうか、校長より早く話を終わらせていた。
するとジラル先生が自分の組の班分けを始めた。
さすがにクラスでの班分けなので知らない顔同士が鉢合わせる事もなく、
「よう、シュロ。今日はお互い頑張ろうぜ」
ゲンタ、クライトと幸い二人の友達同士が同じ班となり手を振りながら集まってきた。
一応、ここで忘れているかもしれないので、シュロの事情をおさらいしておこう。
シュロがこの不思議のダンジョンで探索をしていることを知っているのは道具屋と長老と冒険者だけである。
そして、何故、ジラル先生や学校の先生達は知っていたのかというと、長老が話を通しておいた事にあるらしい。
そういうわけで今まで学校のネタをやらなかった理由はそこにあったりしたというのは…。
…あっ、言っちゃ駄目でしたっけ?
まあ、そんなワケで生徒達には内緒だというのは、保護者伝いに自分の母親に知られないようにするための学校側の考えで、生徒達には自分は働いて学費を稼いでいるという事で通っているらしい。
そう思い浮かべていると、やはり学校側にも迷惑掛けているなと思ってしまったが、ゲンタが小突いて自分を視線の先へと誘って答えた。
「おい、シュロ、あの中でどれが俺達と同じ班になると思う?」
そこでは今から抽選をしているのか、冒険者達はくじ引きをしていた。
その会話の中に…。
「9番、9番だったよな」
そんなセリフを聞き拾ったクライトが眼鏡を掛け直して考え込んだ。
「あれ…、9番って、僕達の班の事だよな、どうして?」
「んっ、今、『シュロ』って名前出なかったか?」
多分、聞き間違いではないだろう。
「どうして、お前のいる班に入りたがるんだろうな?」
不思議そうな顔をして聞いてきたゲンタには悪いが、その前に…。
「おおぉ〜!!」
歓声が上がった。
生徒達は『歓声』の意味が解らず、きょとんとしていたが…自分にはわかった。
「おい、シュロ、俺達の同行者って物凄く美人だぜ?」
嬉々としてゲンタが答えるが、その人物は構わず近寄ってきた。
「あら、シュロ君の班だったの?」
言うまでもない。とてもワザとらしく挨拶にきたのはセリカだった。