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第十四話 カッパにご用心 完結編

 まあ、結果は子供のままだったが、セリカは不思議と気にしない様子で聞いてきた。


 「ところで、そこのお菓子を食べていい?」


 そういったので、お菓子の袋を開けて『ざらざら』と音を立たせながら、二つの皿に盛り付けていると、この小さなセリカ、何が気になっていたのか、ずっとこっちを見ていた。


 「どうしたのですか?」


 「随分と慣れてるのね?」


 「ああ、私には妹が居ましてね…」


 そういえば、小さなセリカには自分の家族構成を教えてない事になっている事に気付いたので盛り付けながら、説明しているとセリカは、盛り付けてある量が多い方を見ていた。


 「まあ、そのおかげもありましてか、こういうのに慣れてしまったのですよ…」


 そう言って、量の多い方を差し出すのは『いつものクセ』だったが、セリカはそれには恥ずかしかったのだろう。


 『ふーん』と言いながら顔を背けて頬を赤らめていたので、自分の妹に言い聞かすようにこう言った。


 「とりあえず、セリカさんは、それ食べててくださいね」


 「あら、何するの?」


 「掃除です。臭いはありませんが、いい加減、店の掃除を始めないとまずいでしょう?」


 「そんなのブラドにやらせばいいじゃない」


 こういう根本は今の彼女と変わりないのだろうと思ったが、ブラドを呼びに行こうとしたセリカを呼び止めながら答えた。


 「駄目ですよ、ブラドさんは、あれでも原因を突き止めようとしているのですから…」


 しかし、そう言ったのはいいが、ロッカーからモップを取り出すしてから少し頭を掻いた。


 この壷が横たわったままだからだ。


 カッパに蹴飛ばされ、中味がこぼれたとはいえ、この壷は自分の体格、身長より大きいかった。


 試しに自分が踏ん張って持ち上げようとするが上がらない。


 「この位置でいいの?」


 それを見たセリカも、下の方に潜り込み、まるで大玉を転がすように立て直して、そう聞いきたので、男のシュロは格好もつかない。


 「どうして顔を押さえているの?」


 もし、ウチの妹がこんなのだったら、間違いなく旅に出ていただろう。


 その後、セリカは自分も手伝うと言ったおかげで、掃除は思ったより早く終わり、バケツにモップを突っ込む頃にはブラドが戻ってきた。


 何かわかったのか聞こうとしたが、ブラドはそのままジョッキを手にして宙に浮き、しばらくすると中身をなみなみ注いだジョッキを手にして、黒くなった液体を見ながらブラドは答えた。 


 「シュロ、この本によれば、古来より魔女というのは、この魔道の壷で煮込まれた液体で体調を管理していたそうだ」


 「…という事は?」 


 答える代わりにブラドは、その液体を差し出した。


 「どうぞ、セリカ様」


 「待ちなさいよ」


 世には、良薬口にニガシとあるが、本当に不味いのは誰でも嫌だろう。


 「心配ありません、全部、薬草で構成されておりま…っ!!」

 

 こういうところは、現在のセリカと代わりないのか、いつものようにイラ付いて聞いてきた。


 「もっと別の方法はないの?」


 「セリカ様、言い終わる前に私の手を見事に弾き飛ばして、天井に穴を開けないでください。


 はい、どうぞ…」


 「どこから取り出してきたのよ?」


 「こんな事もあろうかと、あらかじめ二杯ついでおいたのです。


 これでも何度も『気に入らない』という理由だけで、毎度毎度、吹き飛ばされておりますからね」


 「ふ~ん、ブラド『毎度毎度』という事は、未来の私はいつも、そんなの感じなの?」


 「ええ、そうですとも、私はセリカ様の幼少の頃より、仕えておりますが、握りつぶされるやら、吹き飛ばされるやらで、こっちは破壊するしか脳がないのかと思ってしまうくらいですよ」


 「ふ~ん…」


 ブラドは笑っていたから見えていないのだろう、幼少のセリカに写ってる影が普段のセリカの姿に、みるみる内に変わっていったからだ。


 「一応言っておくけど、シュロ、私は魔王なのよ?」


 姿は少女のままのセリカは、何故か自分がセリカと出会う一年前の事を話したので全て理解した。


 戻っていたのだ…。


 さすがにブラドは、その事に気付いた頃、顔が強張って叫んだ。


 「げ、セリカ!!」


 「あら、その叫び方も懐かしいわね」


 クスクスと笑いながら、少女のセリカはブラドの足を両手でつかみ、一回転、二回転、そして壷に向けて放り投げた。


 『ふう』と蓋をきっちりロックしたのを確認して、火を付けていると、その昔の事が懐かしかったのかセリカはまだ微笑んでいた。


 「長い付き合いなんですか?」


 「そうね、もう12年くらいになるのじゃない?」


 ブラドに聞いたが『バンバン』と壷を叩くだけだったので、つまらなかったのか火力を強めてセリカは昔を思い出していた。


 ヴァンパイアという種族の中で一番、強いヤツはブラド…。


 そんな噂が自分の国にも広まった時だろうか、セリカは偶然にもブラドと出会っていた。


 当時のブラドは数名の仲間も引き連れており、セリカを少し見下ろしていたがセリカは恐れず答えた。


 「あなた、私に仕えなさい」


 ブラド達は、あっけにとられ、セリカを思い切り見下ろす頃には…。


 セリカの拳が音速を超えて、顔を米印にめり込ませていた。


 その日より、ブラドの『地獄』のような日々が続いたのだが…。


 これはまた別のお話…。


 ただ、今のブラドは顔が残念な事になっていた事だけを、伝えておこう。

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