第十四話 カッパにご用心 その2
「なあ、兄ちゃん何か用か?」
しかしそんな事を構わず、自分の家の壷の中から顔を出してカッパは聞いてきた。
「あっ、いえ、…そちらこそ何やってるんですか?」
「カッパが水浴びしたらあかんのか?」
『見ればわかるだろ』と言いたいのだろうか、問題は大有りだった。
「ここは私達の店なのですよ?」
「ああん、そんなんわかっとるわ。大体な、アンタらが悪いんやろ」
「何がですか?」
「ここは昔、小さな湖畔だったんや、それなのに埋め立てて、他の種族の事も考えんで店建ておってから…。
お前等な、そんなにワシ等の事憎いんか?」
「ブラドさん、それはホントの話なんですか?」
もしホントの話だと悪いのはこっちの方だったので、ブラドに聞こうとすると答える前に壷の前に立ちながら言った。
「シュロ…、良く考えてみろ。
いくらセリカ様に何度も店を破壊されようとも、私でもある程度、立地条件を考えて家屋を購入しているのだぞ、それにここは街中だ。
ちなみにここは数年前まで湖畔などなかった…」
「それって、つまり…」
とりあえず答えを言う前にブラドは年長者という事で、カッパに腕を引っ張った。
「な、なにすんねんっ!?」
「決まってる、お前を取り出すため、だっ!!」
「う、うるさいわいっ!!
大体、乾いていたトコロに良い感じで水があったら入りたがるのは本能やろぉが!?」
ブラドは懸命に引っ張るが、さすがカッパといえば良いのだろうか細身の身体で懸命に泳ぎ、ブラドの力に対等に逆らっていた。
「お前、さらりと不法侵入しましたと言ったな。余計に悪い事くらい気付いて、そんな事ほざけっ!!
それに、お前が浸かっているのは、お湯だろうがっ!!」
「痛っ、皿掴んで引っ張るなやっ!!
みんな火事や、火事やでっ!!」
「残念だったなカッパよ、魔界はそんな事では助けなど来るわけがないだろう…大人しく…!!」
「お前ら、後悔しても知らんで!?
ワシがこのまま壷の中に入っとったらな、良いことあるんぞっ!!
幸運を呼ぶモンスターのマジックポットって聞いた事あるやろ!?」
「ほう、それじゃあ、お前は進化するというのか…?」
「…嘘やけど」
「ふざけるなっ!!聞いた事がなかったが、一応聞いた俺に謝れっ!!ダロタ、コイツを突けっ!!」
心境は一緒なのだろう今度はダロタも戦列に加わり、ひのきで出来た棒で『ガシガシ』と突く…。
「あたた、目を突くなや!!もう、ええ加減にせえっ!!」
ザバッ!!
「もう、ええわっ、こんなトコロ、おれるかっ!!」
誰しも『お前が勝手にやってきたのだろう』と心の声が聞こえたが、カッパは悪びれる様子も無く早々と梯子を降りて…。
「ボケェ!!」
ガシッ!!
捨て台詞一つ、細い足で壷を蹴リつけて帰って行った。
「アイツ、最悪だな…」
そうブラドが素直に感想を言った時、グラグラと揺れていた壷が『ごろん』と物の見事に中身をぶちまけていた。
「ホント、最悪ですね」
幸い悪臭はしなかったので、とりあえず、梯子を降りると思った以上に流れ出たらしく、その液体は向かいの家の方まで流れていた。