第十三話 魔王に渡してならぬ物 その4
その本を読みながら、少し返答に困っているとセリカは『まあいいわ』と言って本を次のページを開いたのが見えた。
その瞬間が、その本を…預言書と変えていた。
「ふんぬっ!!」
そう、次の展開は必ずといって良いほど、男はビンタされるのだ。
自分の場合は…魔王相手にだ。
セリカなりに手加減しているのが幸いしたのだろう。辛うじて見えた『ビンタ』を踏ん張るようにしゃがんで避けた。
「良く避けたわね?」
「そりゃそうですよ、死にたくありませんから」
「あら、これでも手加減してるのよ、死にはしないわ」
「セリカさん、そういう事は目を見て言ってください。
そんなにしゃがんだ体勢を軽く宙に浮かせるほどのビンタに、殺傷能力がないと言い切りたいのですか?」
その時、ぐらりと自分達の商品を積んだ棚が崩れた。というより、絶対に殺傷能力があったと思う…。
「シュロ、大丈夫?」
「ええ、まあ…セリカさんは?」
「見るまでもないでしょう、そんな事より…」
セリカが棚を軽々と持ち上げてくれたので、何とか下敷きを免れ、セリカも大丈夫のようだった。だが、そんな彼女が心配していたように『ワナ』が床に溶け込んで見えなくなってしまった。
「これは、大変な事になってますね…」
「あら、私には見えないけど?」
指輪の力のおかげで溶け込んだワナが見えているので、とりあえず自分の近くにあるワナをホコリを払うように手で床を撫でると、一通りのワナが出てきた。
「ここまで来ると、気持ち悪いわ。
この家屋は、もう危ないから吹き飛ばしてあげましょうか?」
「いちいち、そんな事で吹き飛ばさないでください。ブラドの財布の中味が泣きますよ?
まあ、大丈夫ですよ。これから回収しますから、セリカさん、踏むと危ないので宙を浮いてもらえませんか?」
「あら、私に命令するの?」
「こんな状況を作った本人が口答えしないでください」
『まったく』と少し呆れていると、ブラドが戻ってきた。
「セリカさま、酷いじゃないですか?」
「ブラドさん、入ってきたら駄目ですっ!!」
「シュロ、こんな時に何を言ってるのだ?」
ポチッ!!
何故、このような状態になったのか事情を知らないブラドは『どうした?』と事情を聞くために店内に入って、見事に押されるスイッチ…。
そのスイッチは上から水を降らせて食べ物を駄目にしてしまうワナだった。
「……」
そんな水をモロに被ったのは魔王だった。
こんな状況を作ったのは自分にあるから黙っているのか、それとも、ブラドが踏んだワナのせいで黙って怒る手前なのだろうか、どちらにせよ、この沈黙がとても怖かった。
「…とりあえず、着替えてくるわ」
覚悟を決めようかと思ったとき、何とかセリカは納得してくれたようだったので、ブラドと頷きあいとりあえず、繰り返さないように撤去作業を始める事にした。