第十三話 魔王に渡してならぬ物 その1
「むう…」
ここはカイリのいる国、そしてここは彼女の城であり、その主で王であるカイリは地上のとある本を読んでいて唸っていた。
想像通り彼女は普段『読書』という行為から、掛け離れた魔王である。
その魔王が賞味一時間以上、時には玉座から『ずるり』と落ちそうになったり、時には普段とは違う座り方をしたり、身体をくねらせながら『読書』という行為を営んでいた。
「よし…」
本を一通り読み終えたのだろうか、その本を参考にしようとカイリは立ち上がり、本にしおりを挟んで玉座の上に置く。
背伸びをしながら、考え込みながら独り言を呟いた。
「まずは…そうだな…」
何やら集中して自分のいる、この部屋を凍りつかせた。
カイリは基本、炎を扱う魔法を扱うのが得意だが、部屋一室くらいは凍りつかせる事が出来るのも『魔王』である事の証明だろう。
数分と掛かったが、自分の部屋を氷点下を指すほどの冷気が漂う部屋へと変化させて、また、その本を参考にしようと本を手にしたが、何かに気付いたので配下を呼んだ。
「カ、カイリ様、一体これは何を!?」
『ガコッ』と一旦、つっかえて、自分の持ち前の怪力でやっと扉を開けたら、辺り一面が真っ白…。
このカイリの側近であるゴーレム『ウコン』が驚くのも無理も無い。
「まあ、気にすんなよ。
しばらくはここにいるからさ、ウコン、少し頼まれてほしいんだが?」
「何でございしょうか?」
「ちょっと書物庫に行って、本を数冊持ってきてほしいんだ」
「は?」
「『は』じゃねえよ。
ちょいとばかり…そうだな、医学の本を数冊持って来いよ」
読書しないこの魔王が、本を持ってきなさいと言っている。
しかも医学の本を…。
その言動にウコンと、さらにこの扉を守るサイクロプス『サコン』が驚いて顔を見合わせていたので、ウコンが代表して聞いた。
「カイリ様、もしかして、どこかお加減が?」
「うるせえな、文句があるなら、また『合宿』するぞ?
今度、お前達二人は強制参加でな」
その時、二人の脳裏に移ったのは…。
知力強化と題されたクイズに間違えたら、逆バンジー、打ち上げからの落雷という光景だろうか?
体力強化と題されたこの魔王相手を綱引きして、負けたら『どこかで安売りしているワナ屋』から大量に仕入れたという、地雷原への落下の光景だろうか?
おかげで体力と知力が身には付いたのだが、あんな事が二回があったら明らかに身体がもたないのは目に見えていた。
「…じゃあ、医学書ですね」
「ああ、頼んだぜ」
そうして、どっさりと積まれた本の山を傍らに極寒と化した、この部屋でカイリは平然と読書を再開する事、更に数分間『なるほど』とようやく要点を得たのか、再度、立ち上がって…。
「あらカイリ、あなた露出の趣味があったの?」
身に纏った衣服を脱ごうとするカイリを見て、窓からやってきたセリカは呆れながら答えた。
「世の魔王の品格を下げているのは、紛れも無くあなたね」
「へっ、セリカ、そんな事をほざくのならお前は玄関から入って来いよ。
それこそ『品格』ってのを、下げてねえか?」