第十二話 三人集まれば、巨人合体 その5
三人の周囲に緊張が走った。
「…ブラドさん、確か『龍のウロコでビックビジネス』って言ってましたよね?」
「おいおい、シュロ、こういう場合は店長が…」
「じゃあ、オラは関係ないだな」
『むんず』と掴んでダロタの肩を放さないのは、ブラドだろうかシュロだろうか?
「ダロタ、何、関係ないって、顔をしているのだ?」
「ダロタ、こういう場合、何て言うか貴方の辞書に書いてあるはずでしょう?」
「勘弁してほしいだよ。
オラだって、食べられたくないだよ」
「大丈夫、ダロタ、相手はレッドドラゴンだ。
真面目な話、手加減くらいはするはずだ」
「そうですよ。
その証拠に、レクターさんの目の前に小鳥が数匹、戯れているじゃ…」
『パクリッ』
「…ね」
レクターの『ある動作』にさらに凍り付いたのは、ダロタだけではなかった。
「…よし、じゃんけんしましょう」
「公平な勝負に身を任せるという事か…」
「負けたら、レクターの相手だべよ」
そうして、命がけのじゃんけんが終わった…。
「よっし、よっしっ!!」
そこにはオークと人間が喜び合う姿があり、そして、敗者の姿があった。
「じゃあ、ブラドさん、よろしくお願いします」
レッドドラゴンと向かい合うヴァンパイア、ブラドの手にはドラゴンが最も嫌う武器と言われる『ドラゴンキラー』が握られていたのだが…。
「いや〜、ブラド、武器って、装備すれば何となく格好みたいなモノって付くでしょう?」
「何が言いたい?」
「初めてですよ。こんなに武器が、心細く見えたの…」
「だったら、変わってほしいものだな」
当然、『嫌だ』と答えるこの2つの種族は、ヴァンパイアから見て、どう見えただろうか?
だが、それだけレベルが一回り、二回り、それ以上に違うという事だろう。
そんな事を思ったのだろうか、距離を離れると、ブラドも少し緊張していたのだろう。軽く深呼吸して身構えるのを見て、レクターは『すうっ』息を飲んで答えた。
「戦う前に吸血鬼よ。お前の名前を聞いていなかったな」
「ブラドだ。
セリカ様、直属の部下だが、今はワケあって、シュロの店を手伝っている」
「ふむ、ではブラドよ。
かかって来るがいいっ!!」
言った途端にレクターは見事な『ハウリング』を上げた。
しかし、このブラドは、さすがにセリカ直属の部下と言った事だけはあるのだろう。
音という空塊を横に飛んで避けて、前を向いて答えた。
「いくぞっ!!」
その瞬間だった…。
走り込んできたレクターの体当たりをモロにくらい、ブラドの身体を軽く宙に浮かせて、尻尾で『ばちこんっ』と跳ね飛ばし、空中にいた標的を火の玉で打ち落としていた。
…ブラドが『いくぞ』と言って、1秒間の出来事だった。
「…シュロ、やっぱ無理だ」
しばらくして、ブラドは身体を焦がしながら、まだ、生きていた。
「ふむ、やはり無理か、となると残りに期待しても無理だろうな。
ところで、ブラドと言ったな。武器はどうした?」
気が付くと、ブラドの手には『ドラゴンキラー』がなかった。
「そういえば、尻尾が当たるまで持っていたのだが…」
そう言って、ブラドはどこに行ったのだろうと、キョロキョロしていたが、それは意外なところにあった。
「レクターさん、尻尾ところに…」
「んっ、その辺りには落ちてはいないが?」
「いえ、違います…」
正直、言い辛かった…。
「ああ…」
ブラドはやった本人だとしても不可抗力だったので、それしか言えない。
そんなトコロに、ドラゴンキラーはあった。
「おおっ、こんなトコロに…」
おそらく自分の尻尾の振りがあまりにも速すぎたのが原因だろう、その剣は鱗の隙間を掻い潜り見事に突き立っていた。
だが、レクターの態度は意外と淡々としていた。
「あ、あの、レクターさん、痛くないのですか?」
「この程度を『傷』といって、何をドラゴンというのかね?」
そう言って、最初は首を回して、口でドラゴンキラーを咥えるつもりだったのだろう。
『ズシン、ズシン』と軽く身体を一回転させて、シュロに言った。
「すまないが、抜いてくれないかね?」