第十一話 シュロの災難 その8 完結編
完結させました
だが、一つ気になる事があったので、二人に聞いてみた。
「あの、もしどちらかを選ぶとどうなるのですか?」
「それは少し『怒る』けど、ねえ?」
「まあ、今後、大変な事になるな」
自分はナイフを突きつけられ、外野は『やんや、やんや』と騒ぐ、この異様な光景の中で仲の悪いハズの二人が笑いなさっていた…。
「お、おい、この二人は仲間じゃなかったのかよっ!?」
「あら、シュロは私のモノよ?」
『おお〜っ』と外野が騒ぎ…というより、この外野は昼間から飲んでいるのだろうか?
「へっ、オレだって、お前が欲しいんだよ」
カイリもそう言って、騒ぎに便乗するのでもう大変な騒ぎになっていたが、セリカは『B』の手にしたナイフが気になったのだろう。
ギリギリ、目で追える速度で『B』に近寄って、まるで糸くずでも取るようにナイフを抜き取ってこう言った。
「これで、話しやすくなったでしょう」
「何なんだよ、お前らっ!?」
『B』は、もうワケもわからぬまま、そんな絶叫が聞こえたので耳打ちをした。
「貴方はとりあえず、逃げた方が良いですよ?」
「そうしたいけど、さっきあの娘の目を見たら、足が、身体が動かねえんだ」
言われてセリカを見ると、目がほんのりと赤く輝きをみせて微笑んでいた。
「さあ、Bを助けてほしかったら、どっちに助けてほしいのか選べよ」
カイリも自覚はあるのだろう。
間違った文法の使い方をしながら自分に聞いてきたが、考えてみると結局『B』はぶっ飛ばすと言っていた。
だが、セリカは『あら?』と何かに気付いた様子を見せて、突如、Bへの金縛りを解いたのだろうか、自分への羽交い絞めを解いた。
「おい、兄ちゃん、シュロがどんなに苦労してるのかわかってんのか?」
更に背後からそんな声が聞こえたので振り向くと、そこには数名の冒険者達が立っていた。
「姉ちゃん達、武器をとってくれてありがとよ。
もう俺たちに任せてくれないか?」
『コイツに苦労というのをみっちり教え込んでやる』と言って、ズルズルとBを引きずって店外に出て行く冒険者達を見ていると、カイリは驚いたようにセリカに言った。
「普段のお前なら、そんな事を言われても『構わないで』何て言って、そのままシュロを追い詰めていくのに、よくアイツ等の言う事を聞いたな」
「私はシュロのために動こうとしてくれた人達の意思を無駄にするほど、愚かじゃないわ」
「へえ、シュロがナイフで傷つけられた時のアイツ等の視線を気付いてたようだな」
『まあね』と周囲を見渡しながら、セリカは微笑んでこう言った。
「皆さん、シュロ君の為にありがとうございました」
さらに盛り上がりを見せた酒場という名の会場、というより気付いてほしいのはマズいが気付いてほしい部分がある。
「でもお嬢ちゃん、武器を取り上げるあの武芸、すげえな」
まずは軽々と武器を取り上げる、普段の動きもある。
「はい、怖かったですけど、シュロ君のためと思ったので頑張りました」
だが、さっきまで『シュロ』と呼び捨てにしていたのに…。
「どうしたのシュロ君?」
『君』付けに戻っている事に、周囲は気付いていないのだろうか?
顔色を悪くしていると、カイリがセリカの変わりようにため息をつきながらこう言った。
「まあ、これは仕方ねえんじゃねえのか?」
『落ち着けよ』と言って、飲み物を差し出してきたので、それを口にした…。
……。
セリカとカイリの視線が一斉に自分を突き刺したのを感じた。
その時だった。
自分の手にした飲み物は、『アレ』だったのを理解した瞬間と同時だろうか…。
カイリのしてやったりの顔を見送りながら、身体が熱くなったのを感じた。
「あっ…」
セリカは見た。
「おおおおおぉぉぉぉ…」
『数十年』も保存された液体が引き起こした『大惨事』を…
「私の前で吐くなああっ!!」
ほれ薬は腐っていた…。