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第十一話 シュロの災難 その6

 「飲〜め、飲〜めっ」


 「シュロ、男を見せてみろ!!」


 『そうだ、そうだ』と飲めるワケもない薬が入った飲み物を前にして騒ぎ出す外野。


 無理もない、彼等から見ればセリカは清楚で綺麗なお嬢さま、カイリは活発で健康的な女性に見えるのだろう。


 あの細腕がどれくらいのモノを握り潰しているのか、この酒場にいる人たちは想像が出来るワケがなかった。


 そして、あの猫かぶり…


 「あら、どうしたのシュロ君?」


 いや、止めておこう…。


 だが、この二人の魔王を前にして、今まで『壊されなかった』記憶がないは確かだった。



 一つ間違えばこの店は吹き飛ぶ…。



 考えてみれば自分は、とんでもない場所で綱渡りをしているのではないのだろうか?


 冗談じゃない、弁償代が全部自分にまわって来そうだ。


 その時だった。


 「おいおい、年端もいかないガキが女を二人連れて酒場にやってくるたあ、いい度胸してるじゃねえか」


 二人の男が勝手に椅子を持ってきて、セリカ達を挟むように座ってきたので、そういえば、ここが冒険者の集まる酒場だと言う事をすっかり忘れていた。


 軽く食事をすませて、何をするのかをさっさと決めて出るつもりだったのには、冒険者の中には、性質たちの悪い冒険者もいるからだ。


 しかし、最初の思惑は大きくはずれ、この通り『大騒ぎ』となり、すっかり逃げ遅れてしまっていた。


 「あら、シュロ君の友達か何か?」


 「ああ、友達さ、俺らはこんな綺麗なお嬢ちゃん方と仲良くなりたいから、それまでの友達さ」


 「へっ、だったら知り合いでも何でもねえじゃねえかよ」


 カイリが先に何が起きたのか理解したのだろうか、続けてセリカも答えた。


 「じゃあ、まだ開いてる席があるから。

 戻ってくださるかしら?」


 セリカなりに自分に迷惑をかけないように気を使ったのだろうか、丁寧に断るがその男たちは『ヘラヘラ』と笑って、こう答えた。


 「つれねえじゃねえか、こんな乳臭いガキなんかより俺たちと付き合った方がきっとおもしれえよ」


 『なあ、相棒?』とカイリの隣に座っている男は自分の腕をカイリに肩に回して答えた。


 「そうそう、こんなガキが遊ぶ金なんてあると思う?

 ああ、言い忘れていたけど、オレの名前は…」



 「黙りなさい」



 セリカはそれだけを呟いた。


 その一言だけで『ぞくり』と背筋が伸びたのだろうか、セリカの隣に座っている男が息を飲んだのが自分でもわかった。


 「ご、ごめん、オレ、結構口が軽くて、ふと思った事を言ってしまう癖があるんだよね。

 怒ったら、すんませ〜ぇ…」



 「謝る気があるんなら、もっと真面目に謝れよ」



 カイリの二言目で完璧に周囲の空気が一瞬にして緊張に包まれた。


 自分も身動きが一切とれない。


 一言で表せばこの緊張は殺気なんだろう、初めて魔王と出会った時に感じた。そんな印象がこの酒場に充満していた。


 「コイツがな、金の無い事くらい知ってるんだよ。

 だが、お前みたいに何も知らずにシュロの事を悪く言う事は私は許せねえな…」


 「あら、カイリにしては意見が合うわね。同じ意見なのは気にくわないけど貴方達、目障りなのよ」


 「な、なんだと、俺たちを…」


 「てめえらの名前なんて『A』と『B』で十分だろう?」


 「あら、カイリしては、良いネーミングね」


 「お、おいおい、俺達は男だぞ、い、いくらお嬢さんに『たしなみ』があっても実戦仕込みの俺たちに…」


 『ブオン!!』


 カイリが『B』を軽々と天井近くに放り投げたので、セリカ側に座っている『A』だけだろうか、周囲を唖然とさせた。


 それだけの事で、相手が自分より強いと言うのがわかったのか、慌てて身構えるがセリカは、そんな『A』をただ見ていた。


 「て、てめえっ!!」


 最初は『やるのか!?』と意気込んでいたが、セリカはただ見ていた。


 それだけだったが…。


 「ひっ」


 『A』の本能的な部分が身の危険を感じさせたのだろう。その場に尻餅をついて腰を抜かした。


 その『A』に向かって一言、セリカは言った。


 「帰りなさい」


 落ちてきた『B』を放ったまま、あたふたと『A』は逃げ出した。


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