第十一話 シュロの災難 その5
「まったく…」
カイリが何を企んでいるのかわからないままだったが、周囲の視線と二人の魔王、この困難をどう乗り切ろうと考えるために一旦、落ち着こうと立ち上がり、『トイレ』へと向かったのだが…それは間違いだった。
自分達の席の周りには、大勢の人だかり…。
「どこからやってきたの?」
「よかったら、俺と冒険しない?」
「ちょっと通してくれ、食事が運べないじゃないか…」
とようやく店主がたどり着いた頃、ある一人の冒険者が二人の魔王に聞いた。
「シュロが二人と付き合ってるってホント?」
カチャン…
…どこかで何かが落ちて割れたような音がした。
それくらい、静寂が辺りを包み込んだ。
セリカ、カイリ、シュロ…と、まるでマラソンをしているのではないかと感じるくらいの視線の往復を味わっているとセリカは『コホン』と小さく咳き込んで言った。
「はい、シュロ君とは健全にお付き合いさせてもらってます…」
「ああ、シュロとは、もう…な?」
何をお言いなさるかね、この魔王ども?
「ちょ、ちょっとっ!?」
慌てて、誤解を解こうと口を開こうとするが…。
「やったじゃねえかシュロ!!」
バシッ!!
「やりやがったな、こんちくしょう!!」
ドカッ!!
周囲に『バシンバシン』と殴られ蹴られの祝福という名のリンチをくらい。
「誤解…みなさん…騙されたら…駄目…」
だが、いち早く自分のセリフを遮るようにセリカはこう言った。
「そう誤解なんです。
ここにいるカイリに騙されて、シュロは大変な目に会ってばかりで…」
「そんなのそれこそ誤解じゃねえか。
シュロがいつも大変な目に会ってばっかりなのは、セリカといる時だろう?」
カイリの言う事の方が正しいだろう。
しかし、そんな事は周囲にわかるワケもなく、急に口喧嘩を始める二人を見守る事になる最中、カイリが口を開いた。
「じゃあ、シュロに決めてもらおうじゃねえか…」
大きく胸元の開いた懐から取り出したのは、小さな小瓶。
「これは自白薬と言ってな。
どんなに口の固いヤツでも、平気で口を割ってしまう代物だ…」
ピンク色の液体の入った小瓶に『おお〜』と歓声を上げる男達。
惚れ薬じゃないですか…。
しかも、それを頼んでおいたエールに『トクトク』と全部入れて、二人の魔王は口を揃えた。
「「さあ、飲んでっ!!」」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよっ!?」
「シュロ君、遠慮しなくてもいいわ。正しいのだから…」
「ああ、一度ガツンと言ってやれって…」
『そうだ、男らしくねえぞ』と外野が軽い野次を飛ばしたが考えてほしい。
いくら『効果が無い』やら『嘘だ』と言われても、目の前で『惚れ薬』なる物が全量入った飲み物を飲めるだろうか?
「飲めるワケが無いじゃないですかっ!?」
「大丈夫だよ、効果があっても一生面倒みてやるって」
『おお〜』と歓声が上がるが、よく考えてみると…。
「それって、一生奴隷ってワケじゃないですかっ!?」