第十一話 シュロの災難 その4
お待たせしました。
「どうして、カイリさんまでいらっしゃるのかしら…?」
『お呼びじゃないのよ』と、にこやかに笑う魔王セリカ。
「けっ、セリカ、そういうお前はいつからそんなしゃべり方をするようになったんだ?」
『キモイんだよ』と、椅子にもたれ掛けながら軽く伸びをするカイリ。
こうなったのは、三人で行き先なく村を案内するのは、また騒ぎになると思ったので『一旦、食事にしませんか?』と持ちかけたからだ。
そんな感じでよく冒険者の集まる酒場『白眉亭』にて、仲良く(?)テーブルを囲まれてしまうという結果を迎えていた。
「あら、シュロ君、顔色悪いけど?」
クスッと微笑む彼女は周囲の視線が重い空気を出しているのをわかっているのだろうか?
「セリカ、ちゃんと風邪を治してやったのか?」
カイリはそう言って、顔に手を当てたり、額に手を当てたりして自分の体温と比べているのが、窓からの視線が強くしているのを知っているのだろうか?
「細胞が突然回復した身体に戸惑っているだけよ」
「そうか、じゃあ仕方ねえな」
そして、この重い展開も『仕方ねえ』で済まされたトコロでセリカは何かに気付いた。
「ところで貴方の妹を見かけなかったのだけど、どこに行ったの?」
「今日は、こども町内会の集まりで『リリ』はお泊りなんですよ」
「お泊りって、修行みたいなモノか?
かぁ〜、いいねえ、オレの方でもやってみようかな。手下集めて『お笑い強化合宿』って感じでさ。」
「頭に『お笑い』って付いた合宿に何をするつもりですか?」
「丸太に跨らせてさ、急斜面を滑降する特訓とか、コンベヤを高速回転させてコケたら熱い鉄板の上にダイブするハメになる特訓なんてのはどうだ?」
それで何が鍛えられるのだろうと少し疑問に思ったが、カイリのコロコロと弄っていた小瓶が目に入った。
「惚れ薬…ですか?」
「へえ、こういうのに興味があるって事は、やっぱりシュロも男なんだな。
だけどさ、こんなの嘘っぱちに決まってるじゃねえか、大体こんなのホントにあったら…」
カイリは『へへっ』と意地が悪そうにニヤニヤと笑いながら、はっきりこう言った。
「世界はとっくの昔に誰かに征服されているぜ?」
「また、そんな冗談を明るい調子で言わないでくださいよ」
「あら、これは魔界で知られてる。ホントの事よ?」
『知らなかったの?』というセリカの表情に思わずどうやるのか聞いたのは当然だろう。
「簡単さ。まず城に食材を運ぶ商人を惚れさせる。
そして、その商人に食材の中に惚れ薬を仕込むように魅了する。
当然、これは城に入り込む手段で、後は食事なり飲み水なりに仕込むように細工すれば王様まで、魅了できるっていう話さ」
「じゃあ、どうしてそんな『惚れ薬』なんて販売されているのですか?」
「そりゃあ、人間が作った噂話だからさ」
つまり『これを飲んだモノはその人の事を好きになる』というのが商人にとっては金の成る話らしく、告白する勇気のない男にとっては理由を作るのにはうってつけの道具だと答えたカイリは背伸びをした。
すると、胸元の辺りが少し気になったのか、それを直したその仕草に自分は目のやり場に困っていると構わず答えた。
「まあ、もしホントにあったら、言う事を聞く人間なんてきっとつまらねえよ。
人間は自分の言う事を聞かないその人を許せるから、その人のことを好きになれるモンなんだ」
『なるほど』と奥の深い話に感心していたが、少し気になる事があった。
「でしたら、カイリさん、『それ』捨ててくださいよ」
気になっていたのは、さっきからカイリは惚れ薬を手放してなかったという事だ。