第三話
「はっ!?」
飛び起きて気が付くと、自分の家、しかも自分の部屋だった。
「……」
汗を掻いていたので手で拭おうとすると指輪が目に移ったので、あれは夢じゃなかったようだと認識させられる。
「なに、自分の手をぶらぶらさせてるの?」
最初どう母親に言い訳しようと困っていると、どうも人の目には見えないようだった。
その指輪を見つめながら学校に行くと長老と出会った。
「おはよう、シュロ。
昨日は散々じゃったようじゃの…」
シュロが『洞窟』でアイテムを集めて売っているというのは、道具屋と長老と洞窟を探索する冒険者達の中での秘密であった。
そしてどうも昨日は洞窟の前で倒れていたらしく、それを見つけた冒険者が自分の家に適当な理由を付けて運んでくれたらしい。
「…おぬしのことじゃから、深くまで潜る事はないじゃろうが、不覚をとったようじゃのお。」
ふぉふぉふぉ、と笑う長老だったがホントの事をいう訳もいかないので、二人して笑うことにした。
そう言えば、あのセリカという魔王、また来いと言ったがどうすればいいのだろう?
しばらく考えたが、魔界に行く方法がわからなかったので、とりあえず早めに洞窟に行った方がいいと思った。
「ですが、せっかくの儲けを台無しになったのは事実ですから、また探索していいですかね?」
「まあ、そう焦るな。まずは疲れを癒してからじゃ、お前に何かあったら、お前さんのかあさんに面目が立たんからのぅ。」
長老は『ふぉふぉ』と笑い、特別に探索を許可した人の礼儀として当然の返答を返す。
「おお、そろそろ遅刻する時間じゃぞ?」
そのまま歩いて行けば、15分前に学校に到着する時間であったが、これも長老としての礼儀なのだろう。
一週間に一度だけの探索だという約束もあるし、まあ、確かに焦っては駄目だ。
そうして、一週間後を待つ事にした。
…が、次の日。
『オレの見間違いかもしれないが、2階で出るはずのない魔物を見たんだ…』
さらに次の日。
『2階で、ヴァンパイアはありえねえよな…』
そして更に…。
『そういえばこの村の探索者で見た事もない顔も探索した時にいたな、新顔かな?』
ヤバイ、人様に被害が出る前に…。
『くそう、ただ一緒に探索に誘っただけじゃないか、あの女、めちゃくちゃ強いじゃないか…。』
気が付いたら、駆け足で長老に許可をもらっていた。
「おや、もう探索に出るのかの?」
「ええ、週末に用事がありますので、特別の特別に許可できませんかね?」
「そうか、じゃあ仕方が無いのう。」
はい、仕方がありません。
これ以上、人様に被害が『出る』前に、『出る』杭は打っときませんと…。
「だが、気をつけるんじゃぞ。
近頃は、2階辺りでも物騒らしいからのぅ?」
「は…はぃ、気をつけます…」
言えない、自分が原因ですと、とてもじゃないが言えない。
そして長老の家を離れて、今は洞窟の2階。
「何をやってるんですか?」
「力の指輪を試してるのよ。」
「…それ、メリケンサックですよ?」
「そうなの。さっきあそこで倒れている男に『金の指輪』謙譲されたんだけど、
『私の『家』に山ほどあるからいい』って、断ったんだけどしつこいから…」
そこで落ちていたこの指輪を握るようにしてみたら、殴るモノだと理解できたので『試してみて』こんな現状が起きたらしい。
…ホント、ここが不思議のダンジョンでよかった。
「それより、またいらっしゃいと言ったのに、なかなか来ないとはどういう事かしら、言い訳によってはただじゃおかないわよ?」
セリカは優しく言っているが、鉄で出来たメリケンサックを握り潰していた。
忘れてはならない、彼女は魔王なのだ。
「そっ、そんな事言っても、洞窟の探索は週に一回って決まりですから…」
「あら、そんな決まり私は決めてないけど、誰が決めたのよ?」
「これでも僕は家の生活の為に自分の村の村長が、特別に週に一回だけという決まりで探索を許されてるんですよ。」
「あら、『生活の為に洞窟でお金を稼いでる』という話は本当だったの?」
鉄球、もとい、丸めたメリケンサックをひょいっと投げたのだろうが、当たった柱がガラガラと砕けた。
…もしかして、ぶつける気だったのか?