第十一話 シュロの災難 その3
かくしてセリカに『村を案内してほしい』と言われ外へ連れ出され、シュロは普段歩く村の風景を眺めた。
通り過ぎていく人が全員、セリカを見た途端に立ち止まっていた。
…異様だ。
そして、セリカを見た後に何故か自分を睨む男たちは、病み上がりの体に良くない視線を送り込むのだった。
「あら、顔色悪いわよ?」
「…じゃあ、帰っていいですか?」
「駄目よ。ちゃんと案内しないとお母さまに怒られるわよ?」
『はあ』と気を落としながら、とぼとぼと歩いていると威勢の良い声が聞こえてきた。
「よおっ、シュロ、お前風邪引いたんじゃねえのかよ!?」
シュロが良く買い物の際に世話になっている雑貨屋だった。
口の悪くて、女房の尻に敷かれているが、気は優しくて人情家だという。
そんな店主、ゴドーがタバコを加えながら、シュロの首を腕で締め付けながら言った。
「おいおい、お前は自分で働いてまで学校に行ってんだろうが、まさかズル休みしやがったら承知しねえぞっ!?」
『こらっ』というわりには、あんまり力の入ってなかったのでしばらく揺さぶって、開放してくれた。
「お前は特に『働いて』いるんだ。たまにはガス抜きも必要なんだろうな」
「随分と話の分かる方なのですね」
「何せシュロとは、寝小便たれてる時からこちとら見ているからな」
「まぁ、そんな時から?」
「そうさ、これでシュロも女を…」
周囲の空気もおかしい事も手伝ったのか、まあ、こうなるだろう…。
明らかに動きの止まるゴドーに構うことなくセリカは自分に聞いた。
「シュロ君、こちらの方は?」
「雑貨屋のゴドーさんです。
ここでよくお菓子を買ってて、一応、世話にもなっている人かな」
「あら、そうだったの、いつもお菓子をありがとうございます」
そんな感じでうやうやしく、清楚にお辞儀をする魔王にゴドーは『はああ』と気が抜ける身体を支える様に、今度は本気で首を絞めながら自分に尋ねた。
「おいおいおいおいおい、シュロ、やったじゃねえか…」
「何がですか?」
「お前どこであんな上玉と知り合ったんだよ?」
「『お仕事』の方で世話になりまして…」
「かああ、お前も一丁前にやるモンだな。
それで、ズル休みしてデートとシャシャリ込むのか?」
すると『ちょっと待ってな』と言って、店の奥に潜り込んでしばらくすると、一つの小瓶を出してきた。
「何ですかこれは…」
「そりゃ、ピンク色の液体の小瓶とくらあ、お前『惚れ薬』に決まってんじゃねえか?」
「…いきなり、何てモノを出すのですか?」
「心配するな。お代はいらねえよ。
食事にでも、一滴たらせば、後はお楽しみ『ウハウハ』って、魂胆よ」
「言葉が汚いですよ」
「何言ってやがる。男はな『迫る』モンなんだよ。
迫って、迫って、迫り続ければ『結婚』まで一方通行ってのを知らねえのか?」
「そこで『どうしてこの人と結婚したのだろう』って思われて、今の貴方は尻に敷かれている事に気付いてくださいよ」
「甘い、だからシュロは、セリカに大きな顔をされるんだよ」
「そうだ、男は度胸だぜ?」
「じゃあ、おっさん、その惚れ薬、シュロが使わないのならオレが貰っていいかい?」
「おいおい、これはシュロに始めからくれてやる代物だったんだぞ?」
「いや〜、だったら、いつかシュロの食事にこれを仕込んでオレのモノにしてやろうと思ったんだよ」
そこに横槍を入れるように話に割り込み、立っていたのは胸元が開いた服を着た女性。
「シュロ、オレもお前の村を案内してくれよ」
自分は知っている…。
魔王、カイリだった。