第十一話 シュロの災難 その2
ゴールデンウィークは計画的に…
「あの子にこんなに綺麗な彼女がいたなんて、ちっとも知らなかったわ〜」
「ええ、シュロ君にはいつも世話になっていまして、いつかお礼をしようかと思っていたのですが、中々、機会に恵まれていなくて困っていたトコロ。
シュロ君が風邪を引いて熱を出したと、耳にして突然で悪いと思いましたが、やってきてしまいました」
『お母様』と自分の母親にこんな感じで聞いてくる魔王は、まるでどこぞかのお嬢様のように清楚だった。
「シュロ君の様子を伺いたいのですが、上がっても良いでしょうか?」
そして、そんな魔王のとんでもない猫かぶりに騙された母さんは、魔王を容易に玄関を開けて彼女を招き入れたのである。
――。
「大丈夫、シュロ君?」
目を細める…。
「ええ、ああ、大丈夫です…よ。
もう大分、楽になりましたから…」
「シュロ君、ちゃんと寝てないと駄目よ。
一番、危ないって言うのが、風邪の治りかけなのよ?」
ポツポツ…。
あっ、何故だろうか背中がかゆい。
「セリカさん、いつも呼び捨てじゃな…」
『バチィ!!』
「いっつぅ!!」
ベッドで腰掛けていたベッドがまるで静電気が発したかのように激痛が走る。
「あら、大変、セリカちゃんの言うとおり、寝てないと駄目よ〜」
「いや、母さん、騙されてたら…んんんんっ」
電流が腿の裏を走り抜けて、自分を黙らせる。
「どうしたの〜、シュロ?」
母さんは知らないだろう、間違いなくコレは『魔王』の仕業だった…。
「お母様、今から私が魔法でシュロ君の風邪を治して差し上げたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あら、セリカちゃん、そんな事も出来るの〜?」
「はい、これでも少々、魔法の心得がありますので…」
「じゃあ、やってもらおうかしら?」
そう言って、セリカは自分の風邪を治すつもりなのだろうか魔法の詠唱を始めたのだが。
「あら?」
目を瞑っていた自分に聞こえて来たのは、セリカのそんな一言だった。
「どうしたのセリカちゃん?」
そのまま黙り込むセリカに母さんは何かに気付いた。
「もしかして…?」
「ごめんなさい、お母様…」
母さんは明らかに落胆を見せるセリカに励ますように言った。
「良いのよ。セリカちゃん〜、誰にでも失敗くらいあるのだから〜
じゃあ、ちょっと母さん、お茶用意するから、シュロしっかりね」
『バタン』と明るい調子で、自分の部屋のドアを閉めて行ったのであった。
「あの…」
少し静かになったで、そう言って顔を上げるとセリカは俯いていた。
「…失敗したのですか?」
「何にかしら?」
「だから風邪、治らなかったじゃないですか?」
「治るわよ?」
『ケロッ』とお答えなさる、この魔王は『パチリ』と指を鳴らす。
すると自分の風邪独特の頭痛が消えた時、ドアを開けて母さんが入ってきた。
「お茶が入りましたよ〜」
そんな母さんが見たのは大きく深呼吸した息子だった。
「頭痛が消えてる…」
「あら〜、シュロ、風邪が治ったの?」
『ありがとセリカちゃん』と、魔王にお礼をいうがそれを制して魔王はにこやかにこう言った。
「ええ、シュロ君が励ましてくれたお陰です」
「まあ、この子ったら…」
セリカに感謝しながら、自分を見つめながら微笑むセリカを見てふと思った…。
計算だ…。
セリカめ、一回失敗しておいて、二回目に自分のお陰で成功したと言って、最初から母さんの機嫌をとるつもりだったらしい。
セコイ…。
なんてセコイ…。
「母さん、騙されたら…だあああっ!」
人って、電気を通す生き物なんだなと今回、つくづく思った。