第十話 待ち構える魔王の様々 その1
「退屈ね…」
セリカはあくびを一つ、そう呟いて玉座から立ち上がり眼鏡を掛けたメイドに『外出するから掃除しておいて』と声を掛けた。
「はっ、はい、わかりましたです」
そう言って、緊張するメイド。
自分がこれから外出するのだから、いない時くらい緊張を解いてほしいと思ったが、それは無理だろう。
今週、シュロがこの魔界に来るまでの6日間の間、余りに退屈だったので、さっきのメイドに少し悪戯をしたのだ。
さっきのように『掃除をしておいて』と言った後に自分は窓から飛び去る…。
…フリをして、気配を完全に消して戻ってくる。
思惑どおり、玉座に注目しているメイド。
そこに『故意』に置き忘れた綺麗な装飾を施してあるティアラがあった。
だが、流石にメイドといったトコロだろう。
『わあ、素敵ですぅ』とティアラの装飾に一度感激して、元の位置に戻そうとキョロキョロと入れる箱を探しているのだろうが見つからない。
何故なら、セリカが持っているのだ。
警備のモンスターに聞くと、中には粗暴な輩もいてそのティアラを壊してしまう可能性があるから、次の手段は自ずと仲間のメイドに聞くしかなくなるのだが…。
「あ、あれ?」
カギが掛かっていないが、まるで誰かが押しているかのようにドアが開かない。
そうセリカ自身の魔力を利用して外に出られない様にしたからだ。
「あの〜、ここから出たいです〜?」
ドンドンドンと三回叩いては、繰り返すがセリカの魔力で音も漏れることもなく、外部は開く事も無い。
「どうしよう…」
ティアラの宝石の部分に自分の顔が写ったのだろうか、まるでティアラに語りかけるような口調のメイドは、しばらく黙り込んで何か決心を決めたかのようにある方向を目指した。
それは立てかけてある、鏡のような白銀の鎧。
そしてティアラを頭に乗せて、鎧に映るティアラなのだろうか、自分にだろうか『うっとり』としていたが…
何かが足りない。
服は着替えるわけにはいかないので仕方がない事だろう。
顔も、眼鏡も…
まあ仕方が無いだろう。
魔力で気配を消しているセリカも何もせず見守っていると、メイドはとりあえず誰かが来ないのを祈りながら玉座に座る。
「う〜ん…」
だが、まだ『何か』足りない…。
メイドは考えた後、背筋を伸ばし『ごほん』咳き込み、ぼそりと一言。
「私は…魔王…ですぅ」
「あら、貴女がこの城の魔王?」
……。
後は想像に任せるとはいえ、悪い事をしたなと思ったのでティアラを上げたのだが、それ以来、あんな調子だったので少し困ったが、その事を考えるのは後にする事にした。
何故ならシュロの営む店が見えて来たからだ。
まだ、早い時間だったのか明りが付いていなかったので、構う事はなく『すうっ』と店の前に着地して翼を畳みながら、中に入ろうと後ろから『ガラガラ』と聞きなれない音が聞こえたので振り向く。
するとキックボードに乗ってやってきたダロタがやってきた…。