第九話 哀しき戦士たち 完結編
「ふ〜ん、そういう事…」
その時、お怒りの消滅の王が自分達の命を揺さぶらんと呟いていた。
「セ、セリカ様、ど、どうかお怒りをお納めください…!?」
「怒ってないわよ私はただその下種の入った像を触って下種に投げつけた自分に腹がたっているだけよだいたい何その勇気のあるネズミ達と称賛されたいのが目的でこの店に住み着いたって良い度胸じゃないどちらが上かこの機会に教えてあげるから早く逃げなさいシュロ」
ブラド達は無視なのだろうかと考えつつ、怒りのためだろうか、句読点すら着けずに話し出して『逃げなさい』と言ったセリカの言う通りに逃げようと思ったが、それが出来なかった。
そのせいもあるが二人の方を見てみると、同じように逃げようと足掻いていた。
陽光の無い室内で、三人の薄い影が濃くなったと思えば、セリカに向かって伸びていくので、今までとは違う破壊だと直感させてならない。
だが…。
「セ、セリカさんっ!!」
『すうっ』と、身動きがとれるようになったと思うとセリカはその場に倒れようと崩れたので慌てて抱き留めた。
――。
「おい、どうだ?」
「まだ、目覚めませんね」
奥の休憩室のベッドにセリカを運び、介抱しているとブラドが様子を身に来たようだった。
「ところでシュロ、時間は大丈夫なのか?」
「それなら、昔に帰る時間が遅くなった事があったんですよ。
今回もそういう理由で誤魔化しますよ」
「すまないな」
「いえ、これくらいの事しか出来ませんので…」
するとブラドは『ククッ』と笑い、それに気付いた自分をみて『悪い』と一言謝ってこう言った。
「よく魔王相手に、わけ隔てない対応が出来るモノだと思ってな。
それが人間というモノかと思ったら。ついおかしくて笑ってしまった」
「失礼ですね」
「ああ、失礼だ」
ブラドの対応についムスッとしてしまったが、ブラドは構わず『だがな…』と自分に言った。
「誰よりも早くセリカ様に駆け寄って、ベットに運んだ事を『これくらいの事』なんかで済ませるんじゃない。
私は人間の事を全部知っているワケではないが、それは誰にでも出来る事ではない事くらいは知っているのだからな。
…ん?」
「どうかしました?」
「いや、何でもない。
じゃあ、私とダロタはもう帰るから、後は頼むぞ」
そう言いながら、『ダロタ、一緒に帰るぞ』と言って、さよならも言わせず二人は帰っていくのを窓から見送っているとセリカは目を覚ました。
「あっ、気が付きました?」
「……」
ただ黙ったまま、起き上がったのでまだ調子が戻ってないのかと思ったので『無理しないで、まだ寝てた方が良いですよ』と言うがしばらく黙って呟いた。
「…いと思ったでしょ?」
良く聞き取れなかったので、何を言ったのか聞こうとするのが気に喰わなかったのか、今度は聞き取れるくらいの大きさでこう言った。
「ネズミが苦手な魔王なんて情けない魔王だと思ったと聞いているのよ」
「そんな事はないですよ。ただ可笑しかっただけです」
「ほら見なさい」
「別に良いじゃないですか…」
「あら、自分の非は認めた上で自分の意見を肯定するの?」
「そういう意味じゃないですよ。
嫌いなモノの一つあって、良かったなと思っただけですよ」
『どうして』と聞くので一つの物語を話した。
子供の頃に聞かされた物語、それは単純に勇者が魔王に弱点である『道具』を使ってに倒されるという話だ。
「そんな間抜けな魔王の話、聞いた事ないけど…。
あなたは私を魔王と知っている上でそんな事を話して、何が言いたいの?」
空気を歪ませながらそんな事を聞いてきたが、それもいつもの事だ。
「魔王だから、弱点が一つくらいあっても良いって、言いたいんですよ」
『ふーん』と呆れているのか、しばらくすると立ち上った。
「そろそろ帰らないと、遅すぎる時間じゃないの?」
「まあ、そうですけど、大丈夫ですか?」
だが、言うまでもない…。
彼女の足がもつれて、慌てて抱きとめる。
こうなるのは、今日で二度目だ。
しかし、二度目は支えきれず、しりもちを着いてしまう。
おなかの辺りで彼女の頭を受け止める形になって、少し呻いたのがセリカに聞こえたのだろうか『ごめんなさい』と珍しく素直に謝って、立ち上がろうとするが密着した彼女の身体が急に力が抜けて、元の体勢に戻った。
「まだ、調子が戻ってないみたい」
ただそう言って、呟いたままセリカは一向に動こうとしない。
「で、ですけどこのままじゃ、姿勢に悪いですよ」
慌てて自分の身体を起こそうとするが『ぎゅ』と抱きついたまま言う。
「駄目よ、もう少しこのままでいなさい」
こうなったら、ビクともしないのがわかっていたので…。
「わかりました」
しばらくの間だが、この体勢でいた…。
――。
そして、次の店に来る日がやってきて…。
「シュロ、がんばっている?」
そう言って、セリカはいつもの様に様子を見にやって来たが、入店と同時に怪訝な表情に変わっていった。
理由は…。
「シュロ、実はさ。
私も、虫が嫌いで、駆除しに来てくれよ」
カイリはそう言って、抱きついていた。
「カイリさん、とてもそうは見えませんよ」
「この店に来る途中でも、私、怖くってさ〜」
「だったら、抱きつかないでくださいよ」
「いいじゃねえか、セリカだって、苦手なモノがあって腰が抜けてたんだからさ〜」
窓からチラリと赤い『何か』が映ったのを、気のせいだと思っていた。
だが…どうも見られていたらしく…。
そして、自分がセリカに気が付いた頃には…。
「 」
目の前に『白』が広がっていた。
えっ、何が起こったって?
それはブラドの財布にきいてください。