第九話 哀しき戦士たち その4
「というワケで、シュロ、ダロタ、準備はいいか?」
ブラドが作ったインカム越しに聞こえてくるブラドの声に、『んだっ』と一言、頼りがいのあるように頷いたダロタだが…。
「何が『というワケ』なんですか?
ブラドさん、やっぱりやめましょうよ。」
明らかに乗り気ではない、人間がここにいた。
「どうしたシュロ、こういうのはノリが大事なのだぞ?」
「確かに今、僕たちは『ネズミ退治』ためにここにいるんですよね?」
「何を当然な事を言っているのだ。何か問題があるのか?」
「大ありですよ。
ネズミ退治はわかりますよ。何ですか、この装備?
在庫に、マシな装備ありましたよね?」
現在、シュロの装備は、鉄の剣、鉄の盾といった一般的な装備を施されていた。
「おいおい、ただがネズミ退治に、大事な商品の材料を使ってほしくないものだな。」
「ただが『ネズミ退治』って言いましたけど、こっちからしてみれば『モンスター退治』なんですよ?
命が関わっているというのに、この二つだけってのは心細いですよ?」
「何を贅沢言っているんだ。十分だろう?」
「コ、コレが贅沢ですか?」
繰り返すようでしつこいようだが、装備を確認してみよう。
鉄の剣
鉄の盾
コレに何の問題があるか、それでは、別の視点で見てみよう。
武器 鉄の剣
盾 鉄の盾
身体 布の服
頭 なし
防御力に凄く問題があった。
「だからダロタも一緒に屋上に上がらせたのだろう。」
「そんな問題じゃないですよ。
彼にいたっては、フル装備じゃないですか?」
ちなみにコレがダロタの装備だ。
武器 木の斧
盾 木の盾
身体 鉄の胸当て
頭 ブリキの兜
この扱いは一体なんなのだろうか?
しかし、どうしてシュロは、鉄の剣を手にするほど、ただがネズミをそんなに怖がっているのか、それにはワケがあった。
「どうして、自分達まで小さくなる必要があるんですか?」
現在屋上においてシュロはブラドが作った薬によって身長約5センチくらいだろうか、小さくなっていた。
「それはお前がネズミを相手をしてもらうからだ。」
「…ブラドさん、人間を過大評価してませんか?」
全生物において、人間は『強い』生物であるわけがない。
実質、ネズミ退治において、人並みにネズミが大きかったら、退治にしようと思わないだろう。
ましてや魔界の生物は皆、モンスターなのだ。
せめて装備を充実させて欲しかった。
「それにですね。」
文句はまだ尽きない…。
「シュロ、見つけただっ!!」
その時、ダロタが声を上げていた時にはシュロの目の前にネズミがゆっくりとこちらを睨んでいた。
「うわ…っ!?」
思わず呻くように呟くと同時に、ネズミはこっちに突進してきた。
辛うじて横飛んでそれを避け、向き直ると同時にダロタに向かってこう叫んだ。
「ダロタ、こっち!!」
いつぞやの様に抱き抱え、懸命に走るシュロが目に入ったネズミは、口を開けて全力で向かってきた。
二足歩行と四足歩行で走る二つの動物。
絶対的に不利な競争…。
徐々に短くなる生命線…。
しかし…。
「!?」
急にネズミの動きが止まった。
何が起こったのかわからないのだろうから、代わりに自分がそれを確認した。
トラバサミ。
コレがシュロの左手にはめられた指輪の力…。
抜け出そうと足掻くネズミを無視して、シュロは手にした鉄の盾をかざす。
すると、指輪が輝き出してそれを光の玉に変え、それをネズミの手前の床に溶かすように投げた。
「―!!」
何とかトラバサミから開放されたネズミは、それに気付かないのか見えていないのか、突進を再開する。
しかし、前回との違いは獲物が動かない事だ。
知能があったのなら、少しくらい怪しむだろう。
だが、そんな事を考えさせる前に、鉄球が飛んできた。
―その指輪はワナを作る。
痙攣したネズミを見ながら、もう動く事もないだろうと自分たちは勝利を確信した。
……。
「…というのを自分としては、少し期待していたんですよ。
どうして、コレを使ったらいけないんですか?」
「長い想像だな。
大体、お前、あの釜を使わないでワナを作ったら一品が限界だろう?
とにかく、ダロタと一緒に任務を果たすんだ。
いいな?」
渋々、頷くのは人がいいのだろうか、人間の性だろうか?
とりあえず、ネズミを探すことにした。