第九話 哀しき戦士たち その3
「そうね。来ないようにしろとは言わないから、駆除したら許してあげる。
じゃあね…。」
「行ってしまっただ…。」
「いいのか、シュロ、そんな安請負して?」
「別にただのネズミ退治でしょう?
普段、ウチでもやってますよ。」
「……。」
「二人して、その顔はやめてくださいよ…。」
「いや、地上と魔界の違いは、普段何気ないトコにあるのだなと思ってな。」
「えっ、何がですか?」
「…まあいい、とりあえず一旦、家全体の掃除に取り掛かるとしよう。話はそれからだ。」
そんなやりとりを思い浮かべ、掃除をする事、約一時間…。
『ネズミ退治中。』というプラカードがぶら下がったロープでグルグル巻きにされている。
我が仕事場を前に横一列に並ぶ、男三人がそこにいた。
さっきまで掃除をしていたためエプロン姿のシュロ。
掃除が済んだので、エプロンをとった普段着のブラド。
そしてこれからのどこの戦いに赴くのだろうか、ガスマスクを被ったダロタ…。
「ダ、ダロタ?」
「よしっ、初めてくれダロタ。」
「んだっ!!」
何でそんな格好をしているのか、聞こうとする前にダロタは『シュコー』と不気味な呼吸をしながら突撃していった。
「ブラドさん、この物物しさは一体…?」
明らかに地上と違うネズミ退治に戸惑ってしまい、今度はブラドに聞こうとすると家から煙が立ち上ってきたので、さっきダロタが何をしようとしたのかがわかった。
「地上は巣穴を埋めて、その辺にネズミ捕りを仕掛けるのですが、なるほど魔界は煙をたててネズミを追い出すワケですか。」
確かに『地上と魔界の違いがある』というモノだと感心しているとブラドはようやくコッチを向いたが、しかしブラドは困った顔をしていた。
どうしてそんな顔をするのかわからなかったが、なんとなく理解出来てきたのはダロタが戻って来た時だった。
「寒かっただ。」
「シュロ、知っているか、モンスターの中には氷を吐いたりするヤツがいるらしいぞ?」
「それは知ってますけど、まさか…ネズミも?」
「お前な。魔界に『生きうる全ての生命』を地上の人間は『モンスター』と呼んでいるのだぞ?
おいダロタ、大丈夫か、ガスマスクが曇っているぞ?」
身に着けたガスマスクは温度差で曇っていたがダロタ本人は元気だった。
「よし、今度は俺の番だな。」
そう言って次にブラドが家の中に入り、しばらくして戻って来てこう言った。
「うまく屋根裏に逃げ込んだようだな。」
そうなると今度は何となく想像出来た。
「今度はシュロ、お前だ…。」
屋根裏に逃げ込んだネズミを発見して倒せというのだろう。
「この薬を飲んでくれ。」
「ちょっと待ってください。
何ですかそれ?」
「何って…なあ?」
そういって何かおかしい事を言ったのだろうかとブラドとダロタは首を傾げていた。
…とてもワザとらしく。
そして、聞かされたのは、魔界独自のネズミの撃退法だった。