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魔王は一度、勇者と対面してもいいかもしれない 完結編

 それを見て、バージルは…。


 「ふむ…」


 何も無い空間を少し力を入れて引っ掻くように見せた。


 すると、別の光景、どこかの一室が見えた。


 それにシュロは驚くのも、バージルは頷いて見せる。


 「シュロ君、少しキミは魔王という認識を改めた方がいい。


 セリカにしても、この程度の抑制結界など、破るのは造作でも無い。


 ちなみにキミが見てるのは、私の私室だが…」


 手でなぞり光景だけが移動して、棚から容器を取り出した。


 様々な機材がそこにはあったが、シュロが分かったのは、ティーセットだけだった。


 「…魔王らしい振る舞いをしよう」


 「お、おい、それ…」


 カイリは驚いた様子で、バージルを見るが構うことはなく。


 「別にキミとて、特産物を作りたいのだろう。


 先に特産を持つ国の先達の意味合いを込めて、振る舞っても構うまい」


 「お茶ですか?」


 この時『シュロだけ』が、興味を示していた。


 「うむ、他国から『エルフニック・ダージリン』と呼ばれている。


 まあ、一言に言えば、この茶葉が我が国の『特産品』だよ」


 シュロには作法はわからなかったが、バージルの紅茶を入れる作法が完璧であるのがわかる。


 おかげで自分の作法に戸惑いを見せ、視線が泳いだが、とりあえず差し出された紅茶を口に含む。


 そして、


 「何て言うか、飲みやすいですね」


 素直な感想を言うと、バージルは、


 「そうか、飲みやすい…か…」


 穏やかな表情を見せていた。


 そうして、バージルにとっての初めての休日は終わるのだった。


 ……。


 「どうでしたか?」


 その夜、自分の役割を代行していたエタリアが聞いて来た。


 「うむ、随分と見下した様子であったが、興味があるみたいだな?」


 そして、その娘とチェスをしながら、バージルはあきれて見せていた。


 「ち、違います。


 たかが人間の商売の内容に、興味があっただけです」


 先日、なんだかんだ見下していたが興味があるのが駄々漏れだった。


 「想像のとおりだ。


 商売にはならないのが、現状であったな。


 あの調子では、来週には引っ越してしまう事だろう。


 気にする事も必要もあるまい…」


 「そうで、ございましたか…」


 評価次第で行くつもりだったのだろうか、エタリアは少し残念そうだった。


 娘の攻め手を見て、聞いてみた。


 「ところで不死使い共の暴動に対して、兵士の編成はどうなっている?」


 「耐性重視の編成ではありますが、戦闘面おいてに遅れを取る事はないでしょう。


 父上の一声、いえ、ヤツらが戦線を上げようモノなら、殲滅してのけてみせましょう」


 エタリアは念を送り、バージルに確認を求めると、じっくり頷いて答えた。


 「さすが、わが娘、これなら問題もあるまい…。


 だが、少し編成に手を加えよう」


 「何か問題がありましたか?」


 「問題は無い。


 しかし、カイリの方から、ゴーレムの援軍が来るそうだ」


 エタリアは『カイリ』という言葉を聞いて、少し疑い深い表情をした。


 「あのいざこざ好きのカイリからですか、信じてよろしいのですか?」


 「うむ、そのまま信じるのは危険ではあろう…。


 だが『自ら呪いを掛けて良い』と、啖呵を切った手前だ。


 鑑みて、裏切る事もないだろう。


 ならば、南方、内部の反抗勢力の鎮圧に、兵を割いて良いだろうと思ってな」


 そう頷くバージルを、エタリアはまじまじとして見て言った。


 「あの父上、休日でしたのですよね?」


 「うむ、休めと言ったのは、エタリアではないか?」


 「さきの様子では、魔王同士の会議をしたような言い方ではないですか?」


 エタリアの指摘に、


 「そう言われてしまえば、そこまでだな…」


 バージルは呆れてしまう。


 さっきまで魔王三人で国の事を色々と話していたなど…。


 例え娘であっても、信じられないだろう。


 この卓上のチェスでも、バージルは『深考』した上で呆れて見せ、そして、娘の次の攻め手に終わりを見たので…。


 先ほど使用したティーセットを取り出した。


 「エタリアよ。


 少し、どうだ?」


 「!?」


 エタリアは、凄く恐縮して見えた。


 「今日の任務の労う意味合いで、茶を嗜んでも、構うことがあるまい」

 

 「で、ですが…」


 エタリアは、その価値を口にした。


 エルフの紅茶。


 通称『エルフニック・ダージリン』。


 高級な茶葉でもあり、単価にして、


 「…先ほどの人間のいた家屋が、三軒も買える代物ですよ?」


 当然、煎れ方も扱い方も、繊細な紅茶であり。


 その国の魔王が煎れる紅茶は、当然、価値が跳ね上がる。


 そんな作法の持ち主が、紅茶を煎れて差し出した。


 「ふむ、考えてみれば…。


 こうやって、自分の娘とお茶をたしなむ事もなかったな」


 作法にのっとって、紅茶を楽しむエタリアと、


 作法も何もない、味を楽しむシュロの姿を重ねて見ていた。


 そして、その先のゲームを思い出して、気づいた事があった。


 「そういえば、あれは敗北だったな…」


 チェスで無敗を誇った魔王の敗北。


 シュロ達のように、ゲームを楽しもうとするが…。


 「ふむ…」


 そこには勝負の着いたチェスと、単純なカードしかなく…。


 「なるほど、大した事ない…」


 この日より、時折、エルフの国の魔王は休日を取る事になったそうだ。


 だが、どこに行くのやら、行方がつかめないらしく。


 新たに娘を困らせていたという。


 「うむ、赤きドラゴンよ。


 相変わらず、子沢山な事だな?」


 「何を言うか、子供は宝であろう。


 この通り、出産祝いを寄越すのだな?」


 「うむ、出費がかさむ。


 だが、この不動産が当たれば…」


 「…残念だな」


 …ただ、わかるのはティーセットが、忽然と消えたりする事だけであった。

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