魔王は一度、勇者と対面してもいいかもしれない その8
勇者カードが見えた。
だからそこだろうか、魔王一同、機嫌が悪くなる。
「『精霊石、発動』
勇者のいる、周囲5マス…」
バージルは指で5マス数えていたのは、勇者のいる場所から5マスなのか、ここから5マスなのかの確認だった。
「…隔壁、兵器を破壊する。
この際…。
勇者に何らかの強化効果が付いていた場合…」
この部分を見て、バージルはさらに機嫌悪く目を細める。
「効果は倍になる…。
なお、効果時間も加算される」
「つまり、2ターンの間、最高攻撃力を誇ってる。
ドラゴンの攻撃でも、2ダメージしか与えられねえって事だよ」
そして、カイリの視線に気づいた、バージルは聞いてきた。
「カイリ、私の所為だと言いたそうだな。
魔力の封印された結界の中、細工も出来んだろう。
キミは時の運にも、文句を言うのか?」
だが、それを援護するように答えたのは、
「でも、これは貴方の所為ね」
セリカだった。
魔王バージルもセリカ同様、機嫌を悪くなると空気が歪むらしい。
だが、そんな事はお構いなくカイリは言う。
「ここのハウスルールだよ。
最初に厄介事を引き起こしたヤツが、基本…」
そして、彼女はニヤニヤとしてシュロに続きを求める。
「……」
シュロは口ごもるのは、当然、相手が他の国の魔王だからだろう。
シュロとて、言って良い相手と、悪い相手くらいの分別はある。
「あら、シュロ、これは貴方の言葉だったわね?」
それをセリカは見逃さず、クスクスと微笑む。
ちなみに、この笑み、前回、セリカにも、
「そいつぁ『ルール』なんだから、仕方ないんだよな?」
ニヤニヤとしている、カイリにも言ったセリフでもあった。
「あの勘弁して、もらえませんか…」
ちなみに、そこを『深考』した、バージルは肩を竦めながら言うが。
「シュロ君、キミは『苦労』は、してるみたいだな」
言葉とは裏腹に、明るい態度で頷いていた。
「何だよ、気持ち悪いヤツだな?」
それを見て、カイリは気味を悪がった。
「カイリ、キミは感慨に浸ってる人に失礼なモノ言いをする…」
出目は6とサイコロで勇者を進ませたカイリに、バージルは呆れてはいるが、その様子は感心する様子でもある。
「私の休日にこれほど有意義な会議が、出来るとは思わなかったのでな…。
明るくもなろうて…」
「コレ、会議ってほどのモンか?」
シュロがサイコロを振るのを見て、カイリは肩をすくめていた。
ちなみに出目は6だった。
「カイリよ。
キミは明後日の会議、進展があると思うのかね?」
シュロは勇者のコマを進ませるなか、カイリの納得するのを感じていた。
「どうせ、挑発しあい、自国の自慢、そこで会議は終わるのが見えているであろう」
セリカは黙ったまま、バージルからもらったドラゴンを使う様は『その通り』と賛同したように見えた。
「だが、フタを開けてみれば、相手の挑発に乗っては争いを巻き起こす魔王が、援軍を寄越し協力しようというではないか?」
「ほう、深考の魔王が、随分と他国に軽い挑発をするじゃねえか?」
カイリはけんか腰に、バージルを睨むが…。
さすが魔王、態度は変わる事はない。
「だが、世間話程度で、国難を解決するなど…。
良いものだろう?」
「そうね…」
セリカのドラゴンは、ダメージを与える。
だが、先ほどの勇者の行動で、効果は2ダメージではあるが。
この『ドラゴン』の特殊能力が狙いだった。
6が出れば、ドラゴンの特技『恐怖』という、次の出目の二倍、勇者を後退させる事が出来るのだが…。
1だった。
「セリカ、前から気になってたけど、その程度の事で、いちいち機嫌悪くするの、やめろや」
そんなカイリの指摘は、単純に勇者にダメージを与えただけで、勇者を進ませるサイコロを転がす。
6だった。
さすがに『何か』に気づいたのは、シュロだけじゃなかった。
「…出過ぎでは無いかね?」
「なんだよ、しっかりと結界は動いてるぞ?」
合計18マス動いた勇者を、魔王達が驚くように周囲を見回すのは、シュロにとっては何とも言えない光景だった。
「という事は、普通にやって来たという事かね?」
こういう間で、シュロに解説を求めるので、
「たまに同じ出目が何度も続く事は、ありますから…」
シュロにしても、この程度の解説しか出来なかった。
しかし、バージルにとっては『その程度』で良かったのだろう。
「まったく、シュロ君の築いた隔壁が役立っているではないか。
人間も、なかなかやる…」
これは魔界にとってのジョークなのだろうか、バージルは上機嫌だった。
「だろ…?」
カイリも先ほどの態度はどこへやら、同意していた。