魔王は一度、勇者と対面してもいいかもしれない その7
「事は、カイリの国の付近でも起きていた。
だが大事な事は、そのおかげで、人口変動はセリカの国にも影響があったという事だ」
「人口の変動?」
バージルの政治的な言い方に、シュロは理解が追いつかなかったが、彼はそれを『深考』した。
「シュロ君、つまりブラドという吸血鬼は、その人口変動を利用して自分の国の兵士を増やすなり、兵糧の担い手を増やそうと考えたのだよ」
「国を豊かにするにしても、強くするにしても、なんだかんだ言って人手が必要だからな」
ここでようやくシュロに合点がいくが、セリカは納得してなかった。
「ブラドに、そんな考えがあると思えないわね」
バージルは『ふむ』と頷いて、シュロを見る。
「その証拠のシュロ君だ。
我が領土には死人風情が侵入出来ないような、結界が張られている。
ここでの身の安全の保障は『考えられている』証拠であろう」
「でも、問題の起きている最前線に、シュロを送り込んだ事は変わりないわ」
「では、セリカよ。
だったら、カイリの国の方が良かったと思うかね?」
セリカは、
「ああ…」
妙な納得を見せた。
「お前等、喧嘩売ってんのか?」
カイリの殺気を何処吹く風か、さすがに魔王二人、平然としていた。
「まあ、シュロ君、安心したまえ。
この問題は、我らエルフの精鋭軍が責任をもって、討伐を果たそう」
「けっ、結局お前は、前線に出ねえんだな」
「うむ、私の娘に指揮を任せ、新兵の能力を鍛える狙いもある。
私が直々、出てくる必要もあるまいよ」
バージルはカードを補充する。
「うむ…?」
すると色違いの、カードが見えた。
「……」
そのカードを見たセリカ、カイリがバツの悪い表情を見せた。
「あの、バージルさん、勇者カードはめくらないといけませんので…」
「ルールは知っている。
だが、お二人よ。
このカードは、そんなに嫌なのかね?」
「初心者ね…」
セリカはバージルの感情を逆なでにかかるので、彼は不機嫌ながらカードをめくる。
「『装備一新』
この間、与えられるダメージが『-2』になる。
確か、この効果は重複する事が出来るのだったな?」
「まだ、軽い方だな」
カイリは勇者を進めるために、バージルにサイコロを転がして寄越すと彼は感心してみせた。
「うむ、軽く、強固。
想像、定評どおり。
噂通りというのは、上質だという証拠だ。
確かに、これはドラゴンの鱗で出来た、サイコロ。
シュロ君、これは、なかなかの逸品だね…」
先ほどセリカの『魔王に、力が100以下のモノはいると思うの?』という問いかけを思い出す。
バージルは初老ではあるが、おそらく鉄以下は握り潰せるのだろう。
それを吟味したからか、機嫌よくサイコロを転がしているとカイリが言う。
「なあ、バージル。
俺んとこの、ゴーレム寄越してやるよ」
「カイリ、それは私の軍が弱いと言いたいのかね?」
そして、あっという間に機嫌が悪くなるのは、実に魔王らしい。
「お前等の統制のとれた軍事力をなめてねえよ。
あくまで国境維持だ。
お前らは、ゴーレムと違って、無尽蔵に動けるワケじゃねえだろ。
だから、休んでる間、俺らも攻めあがる。
そうすりゃ、お前らの領土も増える、俺んトコの領土も増える。
事も早く済む。
お互い悪い話でも無いだろ?」
「ふむ、その『攻め上がり』が、我が国を及ぼさなければ良いがな」
「んな事、するか…」
苛立ってはいるが、言葉とは裏腹に、出番となったカイリはサイコロを手にとる。
「しかし、逸品か…。
何か、俺んトコでも作って見たいモンだな?」
「あら、ゴーレムや、サイクロプスの脳筋たちに、そんなモノを生み出せるとは思えないわね?」
「うるせえよ、何もやってみないとわかんねえだろ?」
そう言って、カードを補充すると、再度…。
「うむ、カイリ、めくりたまえ…」
勇者カードが見えた。
だからそこだろうか、魔王一同、機嫌が悪くなる。